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Fish of the Month Goby

Welcome photo: カワアナゴEleotris oxycephala(カワアナゴ科)(渋川浩一博士により提供)

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An new ecology topics posted on 7 August 2022

Site opening on 28 July 2022

多聞 再び

大衆魚、ハゼ(沙魚)のコンテンツの登場です。これもハゼ!!と思う魚種の情報が満載されています。また、ハゼは、上皇陛下が研究対象とされている魚種としても有名です。このハゼのコンテンツを用意いただいた今村教授は、上皇陛下が出席されている研究会で、魚類系統分類の講演をなさったことがあるそうです。

「上皇陛下とハゼ研究」で触れられているリンネ協会でのスピーチはNature誌に掲載されています。一読する価値ありです。

「沙」は水辺を表す言葉です。水辺に行く機会が多くなる夏、FoMで学んだ知識を生かし、ハゼ探しに無中なるのも一興かと。新たな発見に出会えるかもしれません。

FoM Editorial

28 July 2022 posted

背景写真:ドンコOdontobutis obscura (ドンコ科)(写真提供:渋川浩一博士).

ハゼ類とは?

ハゼ類はハゼ目Gobiiformesに属する魚類で、Nelson et al. (2016)によると世界から8科約321属2000種以上が知られ、極めて多様性に富んでいます。これらの多くは海産ですが、200種程度は淡水産です。生息場所も多様で、淡水域では渓流部を含む河川や湖沼、海洋では砂泥底、岩礁域、珊瑚礁、マングローブ林などがあり、両者が入り混じる汽水域にも生息します。中にはテッポウエビと共生する種もあります。形態的には、体は一般に紡錘形、多くの種で2基の背鰭がある、腹鰭は胸鰭の下方にあり、多くで左右のものが癒合し、吸盤状を呈する、通常鰾がない、鰓膜は通常峡部と癒合する、幽門垂がないなどの特徴があります。体サイズは小さいものでは1 cm程度、大きいものでは60 cm にもなりますが、多くは10 cm以下です。

このように、ハゼ類は種数も多く、さまざまな環境に適応し、私たちの近くの水圏にも生息しています。マハゼのように簡単に釣れる種もあり、ハゼ釣りを楽しんだ経験をお持ちの方も多いと思います。また、ハゼ類は上皇陛下がご研究されている魚類でもあります。そのようこともあり、ハゼ類は私たち日本人にとって馴染み深い魚ではないかと思います。FoMではそんなハゼ類についていくつかの話題提供をさせていただきます。お楽しみいただけると誠に幸いです。

なお、神奈川県立生命の星・地球博物館の瀬能宏博士には同博物館の収蔵写真をご提供いただきました。また、ふじのくに地球環境史ミュージアムの渋川浩一博士には写真のご提供と原稿の執筆をお引き受け下さいました。ここに心より感謝申し上げます。

今村 央・北海道大学大学院水産科学研究院・教授/北海道大学総合博物館分館水産科学・館長

Figure ダテハゼAmblyeleotris japonicaとニシキテッポウエビAlpheus bellulus(写真提供:神奈川県立生命の星・地球博物館、撮影:内野美穂氏).

28 July 2022 posted

ハゼ学のすすめ:ハゼの分類は難しいのか?

「ハゼの分類は難しい」。いまから四半世紀以上前、筆者がまだ学生だった頃に、よく耳にした言葉です。「なんだかよく分からない」とした方が、的を射ているかもしれません。当時すでにハゼに夢中だった筆者は、どこか違和感を覚えていました。それは「やらず嫌い」に過ぎないのでは?と。

確かに、小型種の多いハゼでは、観察にある程度の慣れやテクニックを要します。細部の観察はもちろん、ノギス等を用いた体各部の測定も、顕微鏡下で行うことが当たり前です(一部の大型種を除く)。分類形質として重視される頭部の感覚管や孔器は、正確な観察にはサイアニン等の染色液の助けが欲しいところ。鱗ははがれやすく、鰭のつくりも繊細です。丁寧に展鰭(鰭立て)されていない標本では、ときに鰭条の計数でさえ四苦八苦させられます。

種数が多い点も、「なんだかよく分からない」感を助長します。当時はまだインターネット環境も貧弱で、今ほど手軽に情報が得られませんでした。とくに「ハゼ好き」でない方にとっては、見慣れないと種の当たりをつけるだけでもひと苦労だったでしょう。

実際に取り組んでみると、観察の手間は、他の小型魚と比べてそう違いがないことに気づくはずです。小さい、種数が多いといった点も、昆虫等に比べればたかが知れています。情報に接する機会に恵まれさえすれば、後は、要は慣れです。ただその前に面倒くささが興味に勝ってしまい、見る気がしなくなる。「なんだかよく分からない」まま思考が停止し、「難しい」という思い込みが醸成、やらず嫌いに陥ってしまう。この辺りが実情だったのではないでしょうか。

時代は変わりました。いまやパソコンやスマホを開けば、古今東西の論文はもとより、それら「知」を集積した各種データベース、様々な言語の自動翻訳サイト、全国の魚好きの方々による日々のつぶやきや鮮やかな画像…その他諸々、多種多様な情報や便利なツールに瞬時にアクセスできます。もちろんそれらは玉石混淆ですが、ともあれ情報の量や収集の手軽さが著しく向上しました。ネット上に拡散するおびただしい数の画像には、普通種はもちろん、魅惑的な「なんだかよく分からない」ものの姿も少なからず含まれます。私たちは今、かつて望むべくもなかった夢のような世界にいるのです。

現代の情報強者であり、そうした画像にも常日頃から触れている学生や若手研究者らと話していると、(「難しい」でなく)「面白い」というポジティブな空気に満ちています。フェーズが明らかに変わりました。ハゼ学がこれからどう進展していくのか、楽しみで仕方がありません。

ハゼ類は極めて多様性が高いため、クロコハゼのように、ハゼ類にはいまだに多くの未記載種(新種)が多数存在するなど、ハゼ類には研究の余地が多く残されています。今回FoMのハゼ・コンテンツの公表を機に、ハゼに興味関心を持つ方が増え、ハゼ学がますます充実していくことを願っています。

Figure クロコハゼDrombus sp. (ハゼ科)(撮影:渋川浩一博士) 本種は和名が与えられているものの未記載種と考えられ、現在検討が進められている。

渋川 浩一・ふじのくに地球環境史ミュージアム

28 July 2022 posted

ハゼ類の多様性

分類体系は考え方や立場によって研究者間で異なることがあります。ここではハゼ類を渋川 (2021)にしたがって7科に分け、それぞれを簡単に説明し、ハゼ類の多様性の一端について紹介します。

ツバサハゼ科Rhyacichthyidae:世界から2属3種が知られ、日本にはツバサハゼRhyacichthys aspro 1種のみが分布しています (Figure Rhyacichthys aspro)。ツバサハゼ類は流れの速い河川の渓流域に生息し、インド・オーストラリア諸島、ニューカレドニア、フィリピン、中国、ソロモン諸島に分布します。形態的には、頭部は縦扁し、尾部は側扁する、口は下方を向く、左右の腹鰭は広く離れる、体に側線管があるなどの特徴を持ちます。

ツバサハゼRhyacichthys aspro(ツバサハゼ科)(写真提供:神奈川県立生命の星・地球博物館、撮影:瀬能宏博士)

ドンコ科Odontobutidae:世界から6属21種が知られ、日本には2属3種が分布します。ドンコ類は淡水産で、日本以外では、韓国、中国、ベトナム、ロシアなどに分布します。ドンコ類は、鰓条骨は6本である、左右の腹鰭は離れる、体に側線管があるかまたはないなどで特徴づけられます。

Milyeringidae:本科からは西オーストラリア州に分布するMilyeringa属の2種とマダガスカルに分布するTyphleotris属の3種のみが知られ、日本には分布しません。本科魚類は洞窟や陥没穴に生息するため、眼は退化し、完全に失われています。また、Milyeringa mararybe以外の4種では体に黒色素胞を持ちません。他にも、吻部は長く、ショベル状である、頭部の孔器がよく発達するといった特徴があります。

カワアナゴ科Eleotridae (see welcome photo):カワアナゴ類は通常汽水域や淡水域に生息し、温帯域から熱帯・亜熱帯域に分布します。カワアナゴ類は世界から28属130種以上が知られ、日本には8属16種が分布します。このうち、ヤナギハゼ属Xenisthmusに属する5種は「日本産魚類検索 全種の同定 第三版」(昭仁ほか, 2013)ではヤナギハゼ科Xenisthmidaeに含められています。本科魚類は、通常左右の腹鰭は離れる、体に側線管がない、尾鰭分節軟条は通常15本であるなどの特徴があります。本科魚類のDormitator maculatusでは体長は最大で60 cmにもなります。

ノコギリハゼ科Butiidae:ノコギリハゼ類はインド・太平洋と西アフリカの熱帯域の淡水や汽水に生息します。本科魚類としては世界から10属46種が知られ、日本には3属3種が分布します。本科魚類は、鰓条骨は6本である、左右の腹鰭は離れる、体に側線管がない、尾鰭分節軟条は通常17本であるなどの特徴を持ちます。

ジャノメハゼ Bostrychus sinensis(ノコギリハゼ科)(写真と標本:北大総合博物館所蔵)

Thalasseleotrididae:本科魚類は2012年に設立された比較的新しいグループです。海産で、オーストラリアとニュージーランドの温帯域から知られ、日本には分布しません。Thalasseleotris属から2種、およびGrahamicthys属から1種のみが知られます。本科魚類は、舌弓と第1角鰓骨が膜状構造で幅広く連続するという特徴で定義されます。

ハゼ科Gobiidae:ここでいうハゼ科は、昭仁ほか(2013)のスナハゼ科Kraemeriidae、オオメワラスボ科Microdesmidae、クロユリハゼ科Ptereleotridae、およびシラスウオ科Schindleriidaeを含みます。ハゼ科はハゼ類の中で最も多様性に富んだ一群で、約275属1950種以上が知られます。極地方以外のほぼ世界の全域に分布し、淡水域から海洋まで生息ます。名前(学名)が確定していないものも含めると、日本には約110属650種以上が生息していると考えられます。ハゼ科魚類は、頭部の孔器がよく発達する、鰓条骨は5本である、多くの種で左右の腹鰭が癒合し、吸盤状を呈する、体に側線管がないなどの特徴を持ちます。

リュウグウハゼ Pterogobius zacalles(ハゼ科)(写真と標本:北大総合博物館所蔵)

今村 央・北海道大学大学院水産科学研究院・教授/北海道大学総合博物館分館水産科学・館長

Figure ツバサハゼRhyacichthys aspro(ツバサハゼ科)(写真提供:神奈川県立生命の星・地球博物館、撮影:熊澤伸宏氏).

参考文献

昭仁・坂本勝一・池田祐二・相澤正宏 (2013) ハゼ亜目. 中坊徹次 (編), pp. 1347–1608, 2109–2211. 日本産魚類検索 全種の同定 第三版. 東海大学出版会, 秦野.

Gill A. C., Mooi R. D. (2012) Thalasseleotrididae, a new family of marine gobioid fishes from New Zealand and temperate Australia, with a revised definition of its sister taxon, the Gobiidae (Telesotei: Acanthomorpha). Zootaxa 3266: 41–52.

Larson H. K., Foster R., Humphreys W. F., Stevens M. I. (2013) A new species of the blind cave gudgeon Milyeringa (Pisces: Gobioidei, Eleotridae) from Barrow Island, Western Australia, with redescription of M. veritas Whitley. Zootaxa 3616: 135–150.

渋川浩一 (2021) ハゼの分類について. 瀬能宏 (監修), pp. 22–23. 新版 日本のハゼ. 平凡社, 東京.

Sparks J. S., Chakrabarty P. (2012) Revision of the endemic Malagasy cavefish genus Typhleotris (Teleostei: Gobiiformes: Milyeringidae), with discussion of its phylogenetic placement and description of a new species. Am. Mus. Novitates 2012: 1–28.

Nelson J. S., Grande T. C., Wilson M. V. H. (2016) Fishes of the world, fifth edition. Wiley, New Jersey.

28 July 2022 posted

マハゼ-日本産ハゼ類の代表選手

子供の頃、防波堤からハゼ釣りを楽しんだ経験をお持ちの方は少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。口が大きく、餌をよく食べるため、簡単に釣ることができ、小さなお子さんがいるご家庭でもハゼ釣りを楽しむことができます。沿岸域で釣れるハゼ類には数種がいますが、最も代表的なハゼはマハゼAcanthogobius flavimanusでしょう(Figure Acanthogobius flavimanus)。私たちに馴染み深いこのマハゼについて取り上げてみたいと思います。

マハゼ Acanthogobius flavimanus(写真と標本:北大総合博物館所蔵)

マハゼはハゼ科に属します。分布域は日本では北海道南部から種子島までとかなり広いです。国外では朝鮮半島、中国、ロシア沿海州に分布します。オーストラリアのシドニーとアメリカのカリフォルニア州からも知られています。しかし、これらは自然分布ではなく、日本で船舶にバラスト海水が取り込まれた際にマハゼの浮遊仔魚が混入し、これらが現地で放出されることで移入されたのではないかと考えられます。水深5 m以浅の内湾や河川の汽水域などの砂泥底に生息するほか、淡水域にも侵入します。マハゼはやや大型のハゼ類で、普通は全長20 cm程度ですが、まれに30 cm以上になることもあります。形態的な特徴として、体の鱗は櫛鱗で、頬と鰓蓋では円鱗である、頭部にはヒゲや皮弁がない、眼は小さくて両眼間隔は狭く、眼径の約1/2以下である、左右の腹鰭は癒合し、吸盤となり、その前後は切れ込む、体は淡黄褐色で、暗色班が散在する、背鰭と尾鰭に黒点で形成される列があるなどが挙げられます。マハゼの産卵期は冬の厳寒期から早春で、砂泥底の巣穴に産卵します。若魚は河口域で多く見られますが、成長によってばらばらになり、晩秋から冬になると沿岸の深みに移動します。多くは孵化後約1年で成熟して産卵し、一生を終えます。

マハゼは大変おいしい魚です。旬は秋から冬と言われています。いろいろな調理方法がありますが、最も代表的なのは天ぷらでしょう。江戸前ハゼの天ぷらは有名です。そのほかにも、揚げてよし、焼いてよし、刺身にしてもよし、いろいろと楽しめます。

こんなことを書いていると、なんだかハゼが食べたくなってきました。筆者が住んでいる函館にもマハゼは分布しています。休みになったら久しぶりに釣りに行き、ハゼの天ぷらに挑戦してみようかな。

今村 央・北海道大学大学院水産科学研究院・教授/北海道大学総合博物館分館水産科学・館長

Figure マハゼ Acanthogobius flavimanus (写真提供:神奈川県立生命の星・地球博物館、撮影:内野啓道氏).

参考文献

昭仁・坂本勝一・池田祐二・相澤正宏 (2013) ハゼ亜目. 中坊徹次 (編), pp. 1347–1608, 2109–2211. 日本産魚類検索 全種の同定 第三版. 東海大学出版会, 秦野.

渋川浩一 (1998) マハゼ. 中坊徹次・望月賢二 (編), pp. 164–165. 日本動物大百科 6 魚類. 平凡社, 東京.

28 July 2022 posted

上皇陛下とハゼ類のご研究

上皇さまがハゼ類の分類をご研究されていることは日本国内はもちろん、海外でもよく知られていることではないかと思います。ではどれくらいのご研究をされているのか、ご存じでしょうか。趣味でご研究をされていると思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、決してそんなレベルではありません。実は上皇さま、プロと同レベルのハゼ研究者でいらっしゃいます。このことは上皇さまのこれまでのご研究からうかがい知ることができます。例えば、宮内庁のホームページ(上皇陛下のご論論文)には、日本の魚類学の学会である日本魚類学会が発行する学会誌に掲載された30編のご論文が紹介されています。最近のものでは、2021年5月に発表されたご論文があり、2種のハゼ科魚類の新種(アワユキフタスジハゼCallogobius albipunctatusとセボシフタスジハゼCallogobius dorsomaculatus)が報告されています(Akihito and Ikeda 2021)。このほかにも、このホームページには他の学術雑誌等に掲載された4編のご論文などが紹介されています。このうち1986年に発表された論文は、1985年に東京で開催された第2回インド・太平洋魚類国際会議で口頭(英語)でご発表されたご研究を、のちに同会議の会報でご報告されたものです。さらに、当時の日本に生息する魚類全種を網羅した図鑑類である「日本産魚類大図鑑」や「日本産魚類検索 全種の同定」のハゼ類のご執筆もされています。

先ほど、日本魚類学会について触れましたが、上皇さまはこの学会の会員でいらっしゃいます。そのため、同学会が開催する年会にご出席されることもあります。最近ですと、2018年に東京で開催された年会にご参加され、ハゼ類に関する発表をお聞きになられています。また上皇さまは、シドニーにあるオーストラリア博物館の名誉リサーチ・アソシエートや、ロンドン・リンネ協会の名誉会員などにもなられています。リンネ協会に関しては、2007年に同協会の「リンネ誕生300年記念行事」で英語で基調講演をなさっています。

このような上皇さまのご研究のご活動に対し、上皇さまのお名前が学名として献名されているハゼ類が3種あります。1種目はPlatygobiopsis akihitoで、インドネシアのフローレスから採集された標本に基づいて新属新種として発表されています(Springer and Randall 1992)。2種目はExyrias akihitoで、西部太平洋の西表島、フィリピン、インドネシア、パプアニューギニア、およびオーストラリアのグレートバリアリーフから得られた標本に基づいて発表されました(Allen and Randall 2005)。本種にはイトヒキインコハゼの和名がつけられています(Fig. Exyrias akihito)。そして3種目はPriolepis akihitoiで、静岡県から得られた標本に基づいて発表されました(Hoese and Larson 2010)。本種にもコクテンベンケイハゼの和名があります。

イトヒキインコハゼExyrias akihito (ハゼ科)(写真提供:神奈川県立生命の星・地球博物館、撮影:鈴木寿之氏).

今村 央・北海道大学大学院水産科学研究院・教授/北海道大学総合博物館分館水産科学・館長

Figure コクテンベンケイハゼPriolepis akihitoi (写真提供:神奈川県立生命の星・地球博物館、撮影:内野啓道氏).

参考文献

Akihito, Ikeda Y. (2022) Descriptions of two new species of Callogobius (Gobiidae) found in Japan. Ichthyol. Res. 69: 97–110.

Allen G. R., Randall J. E. (2005) Exyrias akihito, a new species of coral-reef goby (Gobiidae) from the western Pacific. Raffles Bull. Zool. 53: 231–235.

Hoese D. F., Larson H. K. (2010) Description of two new species of the genus Priolepis from the Indo-Pacific with redescription of Priolepis profunda and Priolepis psygmophilia. Ichthyol. Res. 57: 373–388.

Springer V. G., Randall J. E. (1992) Platygobiopsis akihito, new genus and species of gobiid fish from Flores, Indonesia. Japan J. Ichthyol. 38: 349–355.

28 July 2022 posted

ハゼの生態における多様性

「ハゼを研究している」と言うと、よく「ハゼって、天ぷらにするアレ?」とまず返されます。「アレ」はマハゼというハゼです。ハゼには他にも様々な種がいることは、この配信シリーズを読んでこられた方にはもうお分かりでしょう。そんなハゼは、生態的にも著しく多様性に富んでいます。この生態的多様性、さらに言えばそれを可能とした資質こそが、現在の爆発的とも言える種分化の大きな原動力となったのかもしれません。

例えばハゼは、およそ魚がすむ水域であれば世界中ほぼどこにでも見られます(極地方や極端な深海、陸から遠く離れた外洋等を除く)。多くは海産ですが、河川や湖沼など淡水域に陸封されたもの、海と川を行き来するものも、少なくありません。後者(海と川を行き来するもの)でも、産卵のために川を溯上するもの(溯河回遊)や、産卵に関係なくある一定の成長段階で海と川とを行き来するもの(両側回遊)等、いくつかの異なるパターンが認められます。

基本的にハゼは底生性で、強いて言えば、ふだん底石など障害物の陰にひそむものが多く見られます。他にも、巣孔のすこし上でふわりとホバリングするもの、中層で遊泳し、危険を感じると一瞬で底砂に潜り込むもの、平坦な底砂上で体を伏せ、ときに体を浅く砂中に埋めるもの、カイメンや造礁サンゴの枝間にひそむもの、テッポウエビ類との相利共生関係が確認されているもの、深海の泥場に生息するもの、河口周辺の軟泥底に潜り込むもの、マングローブ林の入り組んだ根間に見られるもの、河川の伏流水に依存するもの、河川上流域の急流で、強力な吸盤状となった腹鰭等を駆使して岩にしがみつくもの等々、例を挙げればきりがないほど暮らしぶりは様々です。干潟の上を水から逃げるように跳ね回るという、魚にあるまじき習性をもつものまでいるのですから恐れ入ります。

波打ち際の砂礫間隙中にひそむミミズハゼ属魚類では、同所的に複数種が見られることがよくあります。ただよく見ていると、それぞれが好む環境条件には、砂礫の粒サイズや淡水の影響度合、波当たりの強さ等において微妙な違いがあり、ゆるやかな棲み分けがあることにも気づくでしょう。沿岸に多様な砂礫環境が見られる日本では、近年、このグループの未記載種の発見が相次ぎ、種多様性認識が大幅に更新されつつあります。

ミミズハゼ属に限らず、ハゼでは、従来着目されていなかった環境から未知のものが見つかる例がよくあります。生態的多様性に富み、あらゆる環境への進出に成功したかのように見えるハゼですが、私たちがその全貌を知るのはまだはるか先のことなのかもしれません。

渋川 浩一・ふじのくに地球環境史ミュージアム

Figure 砂礫間隙に潜むダイダイイソミミズハゼ Luciogobius yubai

7 August 2022 posted

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