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Fish of the Month PACIFIC saury

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A new ecology topics posted on 7 December 2022

Site opening on 17 September 2022

待ち焦がれて

待ち焦がれていたサンマの時節になりました。サンマの旬に合わせて、サンマ・コンテンツを提供いたします。

サンマとペリー提督との意外な関係性、サンマ養殖に向けた挑戦など、我々の好奇心くすぐる話題が満載です。サンマの資源が...という声が聞こえるなか、サンマの生物としての知識向上に役立てればと思います。

ウェルカムフォトは、サンマの増養殖の基盤研究にいち早く取り組んでいた中屋准教授から提供していただいた、サンマ仔魚の写真です。孵化後、数日しか経過していないサンマ仔魚の貴重な写真です。頭でっかちな、まさに子供の体をしていますが、胴体はすでに、サンマらしいきれいなフォルムをしています。

サンマと言えば、七輪で炭火焼、が真っ先に浮かびます。数十年前は、近所の魚屋さんの軒先で、ぱちぱちと音を立てて、香ばしい香りを放ちながら、サンマが次々と焼きあがっていたことを思い出します。モダンなグリルが七輪にとって代わり、五感を刺激するアナログなやり方は、失われていく風景の一つなのかもしれません...

研究もサンマの塩焼きと同様、新たな知見・技術が見いだされ、進展していきます。温故知新、サンマ・コンテンツを見て、サンマの増養殖などで、新たなアイデアを持ち、新技術の開発に挑戦する人材が現れることを願っています。

FoM Editorial

17 September 2022 posted

サンマの分類学

サンマCololabis sairaはダツ目Beloniformesに属する魚類です。ダツ目にはダツ類、トビウオ類、サヨリ類なども含まれますが、サンマは両顎が短くて口ばし状で、胸鰭が小さいことから、両顎が長くて突出するダツ類、胸鰭が大きいトビウオ類、および上顎が短く下顎が突出するサヨリ類と容易に区別できます(サンマとダツ類のオキザヨリの違いはFigureでご確認下さい)。その他にも本種は、下顎が上顎より僅かに突出する、背鰭と臀鰭の後部に小離鰭と呼ばれる小さくて独立した鰭がある、側線は体の下部を走るなどの特徴を持ちます。サンマは外洋表層性で、朝鮮半島東岸から北米西岸のバハ・カリフォルニアまでの北太平洋に分布します。日本では北海道のオホーツク海沿岸、北海道から九州南岸の日本海と太平洋、東シナ海、瀬戸内海、屋久島から知られています。

サンマは今から160年以上も前の1856年に新種として発表されました。発表時にはScomberesox属に含まれていましたが、現在はGill (1896)によって設立されたCololabis属(サンマ属)に含まれています。属名のCololabisはギリシア語由来で、「切り詰められたハサミ」を意味します(中坊・平嶋, 2015)。これは本種の両顎が短いことに由来すると思われます。種小名のsairaは本種の日本各地における地方名「サイラ」に由来します。現在サンマ属にはサンマの他にCololabis adocetusの1種が含まれ、近縁なScomberesox属には3種(ニシサンマScomberesox saurusScomberesox scombroidesおよびScomeresox simulans)が含まれます。サンマ以外の種はいずれも国外産です。

サンマを新種として発表したのはジェイムズ・カーソン・ブレボート(James Carson Brevoort)です。ブレボートは日本の下田(Simoda)から採集された標本をもとに本種を記載しました。新種を設立する時に用いられた標本は「タイプ標本」と呼ばれます。タイプ標本は種の基準となり、分類学的に極めて重要かつ貴重な標本ですが、本種のタイプ標本は現存しません。しかしブレボートがこの著作物中で示した本種の図はサンマの特徴がよく示されており、私たちがよく知るサンマは確かにこの種類だということが分かります。なおこの標本は、鎖国していた日本を開国させたことで有名なペリー提督(Matthew C. Perry)が訪日した際に採集したものです。ペリー提督の日本遠征記の第2巻の中で、ブレボートはサンマの他にも10種の日本産の新種の魚類を報告しています。ブレボートはペリー提督の友人でもあったためでしょうか、彼が新種とした種のうちイトウHucho perryiにペリー提督の名前が献名されています(Brevoort 1856)。

サンマが新種として報告されたペリー提督の日本遠征記第2巻の表紙(北海道大学附属図書館所蔵図書).

上述のように、サンマはダツ類やサヨリ類などと明瞭に区別できるため、Scomberesox属魚類とともにサンマ科Scomberesocidaeに含まれていました(Collette et al. 1984; Nelson et al. 2016など)。しかし近年の遺伝学的研究や形態学的研究ではサンマ類はダツ類の中から派生した一群であると推定されています(遺伝学的研究では例えばLovejoy et al. 2004; 形態学的研究ではToyama et al. 2020)。そのため、サンマ科を独自の科として用いず、サンマ類もダツ科Belonidaeに含める分類体系が示されています。

今村央・北海道大学大学院水産科学研究院・教授/北海道大学総合博物館分館水産科学館・館長

Figure Brevoort (1856)に掲載されたサンマのスケッチを含む図版。上からサンマ、ダツ科のオキザヨリThlosurus crocodilusBelone glganteaとして)、ニシキギンポ科のハコダテギンポRhodymenichthys dolichogasterGunnellus dolichogasterとして)、タウエガジ科のキタフサギンポSoldatovia polyactocephalaClinus polyactocephalaとして)。

参考文献

藍澤正宏・土井内龍 (2013) サンマ科. 中坊徹次 (編), pp. 667, 1933. 日本産魚類検索 全種の同定 第三版. 東海大学出版会, 秦野

Brevoort JC (1856) Notes on some figures of Japanese fish taken from recent specimens by the artists of the U. S. Japan Expedition. Pages 253–288, pls 3–12 in Hawks FL ed. Narrative of the Expedition of an American Squadron to the China Seas and Japan, performed in the years 1852, 1853, and 1854 under the command of Commodore M. C. Perry, United States Navy, by order of the Government of the United States. Vol. 2. Beverley Tucker, Washington DC.

Collette BB, McGowen GE, Parin NV, Mito S (1984) Beloniformes: development and relationships. Pages 335–354 in Moser HG, Richards WJ, Cohen DM, Fahay MP, Kendall AW Jr, Richardson SL eds. Ontogeny and systematic of fishes. Allen Press Inc., Kansas, USA

Fricke R, Eschmeyer WN, Van der Laan R (eds) (2022) Eschmeyer’s Catalogue of Fishes: genera, species, references (http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp) Electronic version accessed 21 July 2022.

Gill TN (1896) The families of synentognathous fishes and their nomenclature. Proc US Nat Mus 18: 167–178

Lovejoy NR, Iranpour M, Collette BB (2004) Phylogeny and jaw ontogeny of beloniform fishes. Integr Comp Biol 44: 366–377

中坊徹次・平嶋義宏 (2015) 日本産魚類全種の学名 語源と解説. 東海大学出版会, 秦野.

Nelson JS, Grande TC, Wilson MVH (2016) Fishes of the world, fifth edition. Wiley, New Jersey.

Toyama T, Kawai T, Imamura H (2020) Phylogenetic systematics of the needlefishes (Beloniformes: Belonidae). Thai Nat Hist Mus Jour Monogr 1: 1–73.

17 September 2022 posted

サンマの生態

秋といえばサンマと言われ、日本ではおなじみ食材のひとつです。しかし、近年は漁獲量が低下しているため、秋の珍味となりつつあります。ここでは、サンマの生態および漁獲量が変化する要因について記します。

サンマは北太平洋の広い範囲に生息する小型浮魚の一種で、寿命は長くても2年未満と推定されています(主に食卓に上るものは1歳)。産卵は20℃前後、索餌は主に8~15℃の海域で行われ、発育に応じて大規模な回遊を行います。サンマの卵は大きさ2㎜ほどで、約20本の付着糸を有します(Figure)。この付着糸で流れ藻などの浮遊物に絡まっています(Figure 2)。ふ化時の体サイズはおよそ8㎜で、体型こそ親とは異なりますが、体色は親と同じく背中は紺色、腹側は銀色です(Welcome photo)。日本近海でふ化したサンマは、海流にのって北東方向へ移動し、春から夏にかけてアリューシャン列島の南の海域(8~15℃)でたっぷりと餌(主に動物プランクトン)を食べて成長します。秋になり水温が低下に転じると(15℃の水温帯が南下)、大きくなったサンマが日本近海に来遊します。日本では漁場が近くなるこの時期に漁獲しています。このように、サンマは水温に応じて北太平洋を広範囲に移動するため、年による水温低下のタイミング、海流の強さや向きなどの違いにより、日本の漁獲量は変化していると考えられています。

Figure2. 流れ藻についたサンマの卵.

中屋光裕・北海道大学大学院水産科学研究院・准教授

Figure サンマの卵.

17 September 2022 posted

サンマの産卵場

サンマは春から夏にかけて成長のため北上し、秋から産卵のために南下をはじめ、比較的暖かい海域で秋から翌年の春にかけて産卵します。サンマの産卵場は、ふ化直後の仔魚の分布を調べた調査から、春と秋は本州東方の沖合域に、冬は本州南方の黒潮域周辺にあると考えられています(Iwahashi et al. 2006)。主産卵期は仔魚の分布密度が最も高くなる冬とされています(Watanabe and Lo 1989)。しかし、サンマは産卵からふ化まで10日以上かかるため、仔魚は実際に産卵された場所からある程度流された場所で採捕され、仔魚の分布域は実際の産卵場から少しずれていると考えられます。加えて、非常に厳しい気象条件(水産庁HP 動画)等により調査の実施が難しく、特に冬の本州東方沖合域における産卵場については断片的な情報しかなく、全体像が分かっていませんでした。そこで、過去22年にわたり断片的に行われた調査結果から、親魚の分布の特徴を調べ、主産卵期である冬の産卵場の全体像をより正確に推定しました。

その結果、冬の産卵期には、サンマは本州南方から本州東方沖合域までかなり広く分布していることがわかりました(Fuji et al. 2021)。また、13℃以上の海域に分布するサンマはおおむね成熟しており、まもなく産卵または産卵直後の状態にあると考えられました(背景のFigure)。成熟しているサンマの分布水温帯は海域によって異なり、西側(本州南方)では比較的高水温(16-21℃)、東側(本州東方)では低水温(14―16℃)でした。さらに、西側(本州南方)では大型の1歳魚が多く、東側(本州東方)では小型の0歳魚が多いという違いもありました。このような結果から、サンマの冬の産卵場は、これまで比較的調査がしやすく情報があった本州南方の黒潮域のみならず、本州東方沖合域まで広がっていることがわかりました。また、産卵場の水温や親魚の年齢構成が東西で異なっていたことから、サンマ個体群変動に果たす役割もまた東西の産卵場で異なると予想されました。今後、産卵場における海洋環境とサンマの産卵の関係についてさらなる調査・研究を進めることで、サンマの資源が大きく増減する謎の解明につながることが期待されます。

冨士泰期・水産研究・教育機構 水産資源研研究所・主任研究員

参考文献

Watanabe, Y., & Lo, N.C.H. (1989). Larval production and mortality of Pacific saury, Cololabis saira, in the Northwestern Pacific Ocean. Fish Bull 87,601-613.

Iwahashi, M., Isoda, Y., Ito, S., Oozeki, Y., & Suyama, S. (2006). Estimation of seasonal spawning ground locations and ambient sea surface temperatures for eggs and larvae of Pacific saury (Cololabis saira) in the western North Pacific. Fish Oceanogr 15: 125–138.

Fuji T, Kurita Y, Suyama S, Ambe D (2021) Estimating the spawning ground of Pacific saury Cololabis saira by using the distribution and geographical variation in maturation status of adult fish during the main spawning season. Fish Oceanogr 30: 382–396.

Figure 冬季調査(1996年1~2017年1月)の各採集点でのサンマ親魚の成熟率(産卵直後または産卵間近の個体の割合). Fuji et al. (2021)を一部改変.

7 December 2022 posted

サンマ養殖の可能性

養殖種の選定条件として、商品として需要があり、価値が高いこと、種苗が入手しやすく、飼育しやすく成長が良いことなどが挙げられます。

サンマは多獲性魚類のひとつであり、需要は高いものの、高価な食材というイメージはまだありません。日本でなじみのイワシ、アジ、サバなど多獲性魚類のうち、マアジやマサバについては、活魚生食用として養殖魚が出回るようになってきています。サンマについても近年の漁獲状況からすると養殖の可能性について検討の余地はありそうです。

サンマの飼育について、2000年前後にアクアマリンふくしま(公益社団法人 ふくしま海洋科学館)が展示に取り組んでおり、水槽内で産卵された卵から親魚までの飼育に成功しています(津崎 2000ab 2001ab)。その後、水産研究所(現:国立研究開発法人 水産研究・教育開発機構)が飼育実験を行い、卵から成熟に至る成長・成熟過程を記録しています(巣山 2013)。水温20℃では、ふ化後240日前後で体長25㎝ほどに成長し、産卵を開始するようです(Nakaya et al. 2010a)。このように、サンマの完全養殖技術は一応確立されてはいますが、商業レベルに達するには、飼育過程で生じる減耗を抑える工夫(サンマ衝突防止水槽)(Nakaya et al. 2010b)は欠かせません。今後、資源量および漁獲量がますます低下していくようであれば、養殖サンマが市場に出回る日が来るかもしれません。

衝突死亡軽減のためビニールシートで覆われたサンマ衝突防止水槽.

中屋光裕・北海道大学大学院水産科学研究院・准教授

Figure 水槽に衝突して脊椎骨を骨折したサンマ.

参考文献

津崎 順 (2000a) サンマの飼育と展示-I. AMFNEWS 2(2): 2-3.

津崎 順. (2000b) サンマの飼育と展示-II. AMFNEWS 2(3): 1-2.

津崎 順 (2001a) サンマの飼育と展示-III. AMFNEWS 3(1): 1-2.

津崎 順 (2001b) サンマの飼育と展示-IV. AMFNEWS 3(2): 1-2.

巣山 哲 (2013) 第7章 飼育下におけるサンマの産卵生態. 水産学シリーズ 175 漁業資源の繁殖特性研究-飼育実験とバイオロギングの活用- (編:栗田 豊・河邊 玲・松山 倫也)恒星社厚生閣.92-106.

Nakaya M et al. (2010a) Growth and maturation of Pacific saury Cololabis saira under laboratory conditions. Fish Sci 76: 45-53.

Nakaya M et al. (2010b) Effectiveness of using a vinyl sheet to reduce mortality during rearing of Pacific saury Cololabis saira. Aquacult Sci 58: 301-303.

17 September 2022 posted

北大総合博物館

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