Loading

Fish of the Month eel

What's new

Site opening on 21 April 2022

一意専心

北海道大学大学院水産科学研究院には、ウナギの生物学的な謎を探求し続けている研究者がいます。我が国を代表する食品企業である東洋水産株式会社およびそのグループ会社には、ウナギをおいしく食べるための技術を探求し続けている技術者がいます。皆、ウナギの、生物として、あるいは食材として魅力に惹かれているからこそ、ウナギへの飽くなき探求を続けています。もちろん、ウナギへの愛情が深い方が多いのも事実で、このウナギ・コンテンツのウェルカム・フォトは、北大水産科学研究院におけるウナギ研究の第一人者であり、ウナギの内分泌と次世代の生産技術開発に専心し、全球規模でシラスも追い求めている、井尻 准教授、お薦めの「ウナギの可愛い顔」です。

このようなウナギを取り扱う、脂がのっているトップランランナーたちに、先進的なウナギ情報を提供いただけることになりました。ウナギには旬がないとのことですが、新年度初めの知識吸収旺盛な春にウナギの新知見を楽しんでいただければ幸いです。

また、ウナギの捌き方、焼き方は、日ごろからウナギに接する機会が多い日本人にとって、比較的知識を持っていると思われますが、今回、東洋水産株式会社のグループ会社の一つであるユタカフーズ株式会社に、ウナギのタレに関する話題提供もいただきました。ウナギを美味しく食べてもらうために、タレの開発に専心しています。

ウナギのタレは、秘伝である。

そう思っていたタレも、ウナギをよりおいしく食べてもらう、そして食欲をそそる様々な工夫がなされていることがわかります。調合はやはり、秘伝ですが...

褐色の艶々のウナギは、食欲をそそります。2022年の初夏の土用の丑の日は、7月23日です。知識を満たした後は、美味な褐色のタレがかかったウナギのかば焼きを堪能いただくこともお忘れなく。

FoM Editorial

21 April 2022 posted

ウナギの生活史

ウナギは「川の魚」と思われがちですが、実は海と川を行き来する回遊魚です。ウナギの産卵場は日本から約 2,000 km 離れているグアム島付近です。遠い海で産まれたウナギは陸に接岸して成長し、卵を産むために産まれた海に戻る大回遊をします。

ウナギは海水と淡水、両方で生きられる魚であり、生育段階により姿を変える面白い生き物です。これからウナギの生活史について説明します。

太平洋の海で産まれたウナギの仔魚は、体の下に卵黄と油球を抱えています。卵黄と油球は孵化後約1週間で消費され、その後は外部からの餌を食べるようになります。仔魚期はプレレプトセファルス (preleptocephalus)とレプトセファルス(leptocephalus)に分かれますが、分ける時期は学者によって違います。一般的な仔魚前期と仔魚後期の概念、つまり卵黄と油球の吸収や摂餌開始を基準(孵化後約1週間)にする人がいれば、レプトセファルスの独特な形である柳の葉っぱのようになるまで(孵化後約1か月間)をプレレプトセファルスと呼ぶ人もいます。

遊泳能力がほとんどない仔魚は約半年間、海流にのって日本や韓国、台湾、中国の沿岸にながれてきます。体長が最大に達した仔魚は、私たちが知っているウナギの形である細長い円筒形になります(シラスウナギ)。これを「変態 (metamorphosis)」といいますが、ウナギは変態の間は餌を食べません。変態が終わったウナギの稚魚は河口域に接岸し、餌を食べ始めると体に色素がつきます(クロコ)。クロコはどんどん大きくなり、馴染みのある「ウナギ」になります。背は緑っぽいブロンズのような色で、腹は白ですが若干黄色です。命名した人は背と腹の間に帯のように見える黄色が印象的だったのか、この時期を「黄ウナギ (Yellow eel)」といいます。蒲焼など食用で消費されるのは黄ウナギの時期です。

5~10年間、黄ウナギとして成長したウナギは性成熟すると、もう一度変態します。自分が産まれたところ、産卵場に向かって 2,000 kmを泳ぎ続けるために目やヒレが大きくなり、体色も変わります。この時にウナギの皮膚が金属のような色に変わるため「銀ウナギ (Silver eel)」と呼ばれ、この変態を「銀化 (Silvering)」といいます。性成熟が始まり銀ウナギに変態したウナギは産卵場に向かって大規模の回遊を始めます。そして繁殖を終えた後に自分が産まれた場所で生を終えます。

より詳しい内容はLASBOS Moodleでご確認ください。https://repun-app.fish.hokudai.ac.jp/course/view.php?id=130

安 孝珍・北海道大学大学院水産科学研究院・特任助教

21 April 2022 posted

ウナギの発生と孵化

天然のウナギが孵化する水温は約25℃と推定されます。産卵場付近で孵化仔魚がもっとも多く採集された水深 (150 ~ 200 m)の水深が25℃前後であるからです (Tsukamoto et al., 2011)。

それではウナギの卵が受精してから孵化するまでどれくらいかかるでしょう。卵の発生および孵化までの時間は水温の影響を受けます。異なる水温で孵化時間と孵化率がどのように変化するか実験してみました。実験には人為的に催熟した親ウナギから得た受精卵を用い、22℃でインキュベートした受精卵が桑実期に達した後、16、19、22、25、28、31℃に設定した水温区に200個ずつ収容しました(塩分は全ての実験区において35)。

胚の発達段階を桑実期、胞胚期、嚢胚期、眼胞および耳胞形成期、心臓形成期、孵化期の6つに分け、各発達段階に至るまでの時間を測定しました。さらに、孵化率についても各群で調べました。その結果、高水温区ほど卵の発生速度は速く、孵化時間は短くなりました。そして平均孵化率は、16℃区で0%、19℃区で11.5%、22℃区で32.2%、25℃区で68.7%、28℃区で3.5%、31℃区で0%であり、25℃区で最も高い値を示しました (Ahn et al., 2012)。これらのことから、ウナギの卵において最適な水温は25℃前後であることが分かり、天然での孵化水温と一致することが判明されました。

安 孝珍・北海道大学大学院水産科学研究院・特任助教

参考文献

Tsukamoto et al., 2011 (https://doi.org/10.1038/ncomms1174)

Ahn et al., 2012 (https://doi.org/10.1016/j.aquaculture.2011.12.020)

21 April 2022 posted

ウナギの栄養吸収

ウナギの仔魚期における栄養吸収開始時期を、ペプチド・トランスポーター1(PEPT1)の発現を指標に調べました。PEPT1はdi-peptideやtri-peptideの高い輸送能力と低い特異性のため、栄養輸送体として広く使われています。サンプルとして孵化直後から12日目までの仔魚を用いました。また絶食による影響を調べるため、給餌を始める6日目から仔魚を給餌群と無給餌群に分けました。その結果、PEPT1の発現量は孵化後5日目から7日目の間に著しい上昇を示し、給餌群に比べ、無給餌群の発現が10日目で有意に高くなりました。同時に主要な消化酵素であるトリプシンについても発現変動を調べました。トリプシンの発現もPEPT1と同様の傾向を示し、6日目から8日目にかけて上昇が見られました。またPEPT1と同様、無給餌群の発現が給餌群よりも有意に高く、両遺伝子の発現上昇時期は養殖現場での給餌開始時期と一致しました。

さらに、13日目の仔魚を消化管部位に応じて、食道部、胃原基部、腸前部、腸後部および直腸部に切り分け、定量real-time PCR法によりPEPT1とトリプシンの発現部位を特定しました。PEPT1は腸後部で、トリプシンは膵臓を含む胃原基部で、それぞれ最も高い発現が見られました。

安 孝珍・北海道大学大学院水産科学研究院・特任助教

参考文献

Ahn et al. 2013 (http://dx.doi.org/10.1016/j.cbpb.2013.08.005)

21 April 2022 posted

ウナギの浸透圧調節

ウナギの仔魚、レプトセファルスは海洋環境に生息するため、海水適応能の発達が重要です。海に生息する魚は、環境水が体液よりも高張なため体内の水が奪われる傾向にあり、脱水を防ぐためには海水を飲んで腸から水を吸収し、同時に余分な塩類を排出する必要があります。そこで、水飲みと塩類の排出するイオン共輸送体の発現について調べました。

まず、水飲みの開始時期を特定ため、孵化直後から毎日仔魚を、蛍光物質を含む海水に3時間浸漬し、レーザースキャン顕微鏡で観察しました。その結果、孵化直後から消化管内に蛍光物質を含む水が観察され、飲み込まれた水は孵化1日目には頭の後ろ付近に留まっていたが、2日目になると肛門まで達しているのが観られました。さらに、口が開く正確な時期を調べるために、仔魚の走査電子顕微鏡観察を行いました。孵化1日目に裂け目のような形をした口が観察され、2日目には穴状の構造となりました。

飲み込まれた海水から水が吸収されるのに先立ち、その浸透圧を低下させるためNai+とCl-が吸収されます。すでに、ウナギの腸上皮細胞に発現するNa+とCl-の吸収を担うイオン輸送タンパクは、Na+, K+, 2Cl-共輸送体2betaa(NKCC2beta)とNa+, Cl-共輸送体beta(NCCbeta)であることが判明しています。そこで、NKCC2betaとNCCbetaの日齢による発現変動を測定し、さらに部位別発現量を比較しました。

NKCC2betaの発現量は孵化後から4日目にかけて徐々に上がり、5日目と6日目で有意な上昇を示しまいた。しかし、7日目で低下し、その後安定しました。一方、NCCbetaの発現量は孵化直後に最も高く、3日目において最低値を示した後、上昇に転じました。6日目の発現量は4日目より有意に高かったが、再び若干減少し、その後は安定しました。孵化時の高い発現量の原因としては卵中に含まれる母体由来の要因が考えられます。部位別発現については、NKCC2betaの場合、腸後部の発現量が食道部・胃原基部に比べて有意に高かったが、腸前部・直腸部との有意差はありませんでした。NCCbetaの発現量は直腸部で他の部位より有意に高い発現を示しました。

安 孝珍・北海道大学大学院水産科学研究院・特任助教

参考文献

Ahn et al. 2015 (https://doi.org/10.1007/s12562-014-0841-8)

21 April 2022 posted

ウナギはどこにいる? ~絶滅危惧種ニホンウナギの分布域を環境DNA解析で推定~

ウナギは、蒲焼などのご馳走としてとても馴染み深い魚です。しかし現在では、その漁獲量はかなり少なくなっており、環境省やIUCNによって、絶滅危惧種に指定されています。今後もウナギを保護しながら、水産物として持続的に利用していくためには、その資源を適切に管理することが重要です。しかしこれまで、ウナギがどこに、どれくらいいるのかすらよくわかっていませんでした。それは、普段ウナギが岩陰に隠れたり砂泥中に潜って暮らしていたりするので、捕獲したり見つけたりすることが難しいからです。

そこで、水中のDNAを分析することにより、ウナギの分布を調べました。これは環境DNA手法と呼ばれる、最先端の手法です。水中には、様々な生物から排泄物や分泌物として体外に放出されたDNAが存在しています。そのような生体外の微量なDNAでも、現在の技術をもってすれば検出することができます。環境DNA手法は、生物を捕獲しないため、絶滅危惧種など貴重な生物の分布調査にとても有効な手法です。それだけでなく、短期間のうちに広範囲にわたる調査を行うことができるという利点もあり、対象生物の分布を調べる上で非常に役立ちます。また生物の個体数が多ければ環境DNAも多く放出されると予想されるため、環境DNAの濃度から、その環境に生息している生物量も把握できる可能性があります。

北海道から沖縄に至る全国の265河川、365地点でニホンウナギの環境DNA調査を行った結果、ウナギの環境DNAは、関東以西の本州太平洋側や瀬戸内海そして九州西岸の河川において、高濃度で確認されました(Figure for the eel-eDNA distribution map)(Kasai et al. 2021)。一方日本海側は、能登半島以西では低濃度ながら検出されましたが、能登半島以北ではほとんど検出されませんでした。そして北海道の河川からも、ほとんど検出されませんでした。

ウナギの環境DNA濃度が高かった河川は全窒素濃度も高い傾向にありました。これは高栄養環境にある河川ほどウナギの生残や成長が良いことを示唆しています。全窒素濃度は富栄養化の指標とされ、水質の良し悪しの判断に用いられています。高度経済成長期に日本の水環境が著しく悪化したことに基づき、かつては全窒素濃度が高いといわゆる汚れた川と判断されていました。しかし近年の下水処理技術の発達や、様々な面から水環境に対する配慮が行われてきたおかげで、日本の河川は目を見張るほどきれいになりました。そのため本研究で得られた全窒素濃度が高い河川というのは、一昔前のように汚れた河川ではなく、むしろ生産性が高く豊かな河川ととらえた方がよいでしょう。つまり、全窒素濃度とウナギの環境DNA濃度の間に正の相関があるということは、豊かな河川にウナギが多く生息していることを反映していると考えることができます。

Figure for the eel-eDNA distribution map: 河川下流域におけるニホンウナギの環境DNA濃度(河川水中のDNA断片の数).

笠井亮秀・北海道大学大学院水産科学研究院・教授

参考文献

Kasai A. et al. (2021) Distribution of Japanese eel Anguilla japonica revealed by environmental DNA. Front. Ecol. Evol. PR.

21 April 2022 posted

ウナギ雑考-1

日本名「うなぎ」は学名ではAnguilla japonica(アンギラ ヤポニカ)といいます。ジャポニカ種という人もいます。この学名は、江戸時代、長崎の出島にいたシーボルトとその助手がオランダに標本を送付し、ライデン国立自然史博物館で名付けられたものです。Anguilla(アンギラ)は属名で、いわゆる「うなぎ」という魚はこの属内にあり、ヤツメウナギなどは、形はウナギに似てはいますが遠く離れたウナギ属外のグループであり、ウナギではありません。ウナギ属は世界で19種・亜種が知られています。「うなぎ」というと全ての種が含まれてしまうため、研究者はA. japonicaを「ニホンウナギ」と表記することが慣例です。

さて、日本人は縄文時代にさかのぼるほど古くからウナギを食べてきたようです。ただし、大衆に広く食べられるようになったのは江戸時代に蒲焼きが発明されたのがきっかけといわれています。他の国では、日本の蒲焼きのように広く親しまれる食材ではありません。日本の蒲焼き消費量は2000年代初期にかけて増え続け、ウナギの稚魚、シラスウナギの漁獲量だけでは日本人の需要を満たすことはできなくなっていました。養殖ウナギであっても、黒潮にのってやってくるシラスウナギを漁獲して高温・飽和給餌環境で急速に育てたものであり、つまりシラスウナギの供給量は天然のシラスウナギ資源に完全に依存します。シラスウナギの漁獲量を大幅に上回る蒲焼を日本人は消費していますが、不足分は主に中国、台湾からの輸入に頼っています。中国、台湾のシラスウナギ漁獲量が豊富かというと、決してそうではなく、「ニホンウナギ」以外のウナギ種も養殖に用いられています。「られています」と断言できるのは、蒲焼にすると区別はつかなくても、そのDNAを解析すると「ニホンウナギ」ではないという事例があるからです。

ところで、日本にはもう一種のウナギがいます。「オオウナギ」といいます。単に大きなウナギではなく別種です。オオウナギは太平洋、インド洋に広く分布し、熱帯の栄養豊富な河川では特に大きく育ちます。全長2m、体重15kgを超えるものもあります。日本では沖縄から九州にかけて来遊してくるのが北限のようです。九州の河川でウナギ調査をしていると、ごくまれにオオウナギが捕れることがあります。背にはまだら模様があり、太っちょボディーであるのでニホンウナギと間違うことはありません。調査対象ではないので、計測することなく川に放流します。丸い体を、のたりくたりと緩慢にくねりながら泳ぎ去っていく様子はユーモラスです。

シラスウナギは、黒潮に乗って日本に来遊します。黒潮は台湾沖から沖縄の北方を流れ九州東方沖を通り、四国、本州南岸沖を流れます。このため、シラスウナギは台湾、中国南部、韓国、日本に流れ着きます。日本では、九州、四国、本州太平洋側での接岸が多く、これは、黒潮の流路とよく一致します。上記の笠井亮秀先生の環境DNAによる解析においても、九州、瀬戸内海周辺、和歌山から宮城県辺りまでの河川でウナギのDNAが高い濃度で検出されています。それより北になると、シラスウナギの来遊数は大きく低下するようです。「ようです」と表現するのは、シラスウナギの漁業がない地域では河川でのウナギ生息数から推定するしかないからです。シラスウナギは来遊しているものの、冬季の低水温を乗り切ることができないから生息数が少ないということも、可能性はとても低いが考えられます。来遊1年目のウナギは20 cmをようやく越える程度の小さなもので(シラスウナギは10cm)、低温に弱いことが知られています。大きく育つと低温でも生き延びることができますが、これは屋外での飼育経験からいえることです。

少ないとはいえ、下北半島までは毎年ある程度の数のシラスウナギが来るものの、津軽海峡を越えて北海道まで到達することはまれと考えられていました。道南の河川では、ウナギの捕獲例は少数にとどまります。筆者が函館に着任してからの14年間では遊楽部川の一例のみでした。ところが最近、東京大学農学部の黒木真理先生らが北海道の河川でウナギ生息調査を行い、苫小牧近辺の勇払川河口で多数のシラスウナギを捕獲しました(Morita & Kuroki 2021)。シラスウナギから成長した黄ウナギも多く捕獲されたことから、毎年シラスウナギが来遊し、このエリアで越冬して成長していることが初めて確かになりました。北海道にはシラスウナギはほとんど来遊せず、川に遡上しても越冬できるウナギはあまりいないだろうと考えていた筆者は、黒木さんの報告にはびっくり仰天しました。改めて、上記の笠井先生の結果を眺めてみると、確かに苫小牧付近の河川でウナギのDNAが検出されていました。なるほど見事にウナギの生息域をいい当てているものだと感心するばかりです。勇払川のウナギは太平洋沿岸を伝って来遊するのか、日本海側を周って津軽海峡を通って来遊するのか、2つの経路が考えられますが、笠井亮秀先生の研究では東北日本海側にはほとんどウナギDNAが検出されていないので、太平洋側から到達していると考えるのが今のところは妥当だろうと思っています。

井尻成保・北海道大学大学院水産科学研究院・准教授

参考文献

Kentaro Morita & Mari Kuroki (2021) Japanese eel at the northern edge: glass eel migration into a river on Hokkaido, Japan. Ichthyological Res. 68: 217–221.

21 April 2022 posted

鰻の養殖と市場-1: 国産うなぎ

日本国内の池入れ量は約20 tと言われており、成鰻換算で20,000 tと予想されています。このうち約5,000 tが国内の専門店にて消費され、残り約15,000 tが国内加工場にて蒲焼に加工されます。国内の加工工場は、鹿児島に9~10工場、愛知に7~8工場、静岡に20工場、高知に3~4工場、福岡と宮崎に各1工場あり、これらが主な加工地です。

1) 産地

鹿児島:養殖の最大産地で約8 tのシラス鰻が池入れされています。養殖方法はコンクリートの池にハウスを設置し、比較的高い密度で養殖を行うため池上げまでの期間は10ヵ月~18ヵ月で一般に周年養殖と呼ばれます。大規模な企業養鰻が多い地域です。大規模加工場(年間生産量300 t以上)が多いため専門店向けの活鰻出荷よりも加工場向けに出荷される鰻が多いのが特徴です。

宮崎:養殖の主要産地で鹿児島、愛知に次ぐ約3tの池入れがされています。養殖方法は地面を掘り、砂利を敷いた池にビニールハウスをかけた養殖池で池上げまでの期間は6ヵ月~12か月で一般に単年養殖と呼ばれています。加工工場は1工場ですが、鹿児島の加工場へ活鰻を出荷する事が多いため鹿児島同様、加工向けの活鰻出荷が多いのが特徴です。

愛知:鹿児島に次ぐ第2位の産地で約4tの池入れ量です。かつては国内1位でした。鹿児島は企業養鰻が多いのに対し、愛知は昔ながらの個人経営の養殖場が多く100軒以上が登録されています。養殖のスタイルは単年養殖が7割、鹿児島のような周年養殖が3割で単年主体の産地です。活鰻の出荷先は、東京、名古屋、大阪の専門店向けと愛知、静岡の加工場向けが主です。加工場は中規模(年間生産量100~300t)から小規模(年間生産量100t未満)の加工場で地元愛知県産の鰻を加工する事がほとんどになっています。

静岡:昔からの鰻の産地として知名度があり、「浜名湖産」うなぎなどブランド力が高い産地です。池入れ量は約2 tで東京の専門店向け活鰻出荷と地元加工場向けの出荷が主です。加工場も漁協の加工場の他、小規模加工場が多く浜名湖産、静岡県産の希少ブランドとして比較的高値での販売がされています。県内産の活鰻だけでは加工場の加工量を賄えないため愛知県産をメインに他産地(鹿児島、宮崎)も加工原料として使用します。

その他:高知・徳島はシラスの主要採捕地で養殖場も各15~20軒(池入れ量各0.5 t)、加工場も高知にあり「四万十」ブランドで販売されている蒲焼もあります。

2) 加工品

加工場で製造される加工品(冷凍蒲焼)は10 ㎏箱(5 ㎏×2)と真空パック品が主で、バルク品は10 ㎏あたりの尾数がサイズとして表記されます。1尾200 gの蒲焼は10 ㎏で50尾となりますので「50尾サイズ」と呼ばれます。一般的に流通するサイズは100尾(100 g)~30尾(333 g)で、10尾刻みでサイズ分けされています。量販店の水産部門、百貨店の水産テナントのほとんどで夏のシーズンには国産うなぎの加工品販売が行われます。商品形態は長焼きのバルク品を店舗にてトレーパックして販売するものと加工場にて真空パックされた長焼き、カット品を販売する形態が主です。価格はその年の活鰻相場により上下しますが、5,000円/㎏~8,000円/㎏が近年の加工品相場です。

3) 加工品の市場と流通

日本国内の鰻の市場及び流通は量販店、水産専門店、外食産業(回転寿司、牛丼チェーン、和食ファミレス)、中食(持ち帰り弁当、持ち帰り寿司)が鰻加工品の市場です。また、近年は「ふるさと納税」の返礼品、電子商取引(EC)での鰻の流通量が増えており、国内加工場の中には加工品の大半をECで販売するメーカーもあります。かつて鰻加工品は量販店での販売が全体の7割~8割と言われていましたが、近年は回転寿司、牛丼チェーンの販売が伸びています。

21 April 2022 posted

鰻の養殖と市場- 2: 海外産うなぎ

海外ではジャポニカ種、ロストラータ種、アンギラ種、ビカーラ種、マルモラータ種が主に養殖されています。

1) 産地

中国:海外産うなぎの最大産地で現在3種類(ジャポニカ種、ロストラータ種、アンギラ種)の鰻が養殖されています。

ジャポニカ種は日本と同じ鰻でシラスも台湾・中国・日本・韓国で採捕されます。

ロストラータ種はアメリカ東海岸から中南米東海岸で採捕される鰻で近年中国産鰻の主要種となっています。食味の面でジャポニカ種に劣る評価でしたが、価格の安さから市場での認知度も上がっています。

アンギラ種はヨーロッパから北アフリカで採捕される鰻でかつては中国で大量養殖され日本の市場のメインとなりましたが、乱獲による資源の減少からワシントン条約の保護対象となり流通量が管理される事で養殖・加工量も減少しています。

中国は養殖と加工が同じ地区で行われており、主要産地は福建省、広東省、江西省で近年は上記3種の鰻を年間40,000~60,000 t養殖しています。

加工場は最盛期60工場以上が稼働していましたが、現在は実質30工場程度の稼働です。

台湾:30年前は鰻の養殖・加工の最大産地でしたが、中国での養殖・加工が始まってからは年々規模が縮小し、近年は活鰻の日本向け輸出(1,500~2,000 t)と自国消費の加工品製造が主です。

加工場は3工場が稼働していますが、他の魚の加工など兼業での事業継続となっています。

インドネシア:約10年前から現地にて採捕されるビカーラ種、マルモラータ種(オオウナギ)の養殖を行っており、加工場も数工場建設されました。

現在は、ビカーラ種の養殖適性や加工品としての商品価値の問題で年間の生産量も大幅に減少しています。

韓国:自国での養殖鰻は自国にて消費され日本に輸入される事はほぼありません。消費量としては自国分だけは足りないため活鰻、加工品ともに中国から輸入も行われています。

2) 加工品

中国産の加工品は量販店、外食、中食とあらゆる業態へ販売されています。昨年春からは輸入商社の投げ売りなどによる安値(30尾サイズ:1,100円/㎏)で再び大きく販路を広げました。この安値で販売されたのがロストラータ種で価格により食味のマイナス面も受け入れられた状況です。

日本の2020年1月~12月の輸入通関統計は17,263tで前年比118%でした。

過去、量販店で販売される鰻蒲焼のメインサイズは70尾~50尾(140g~200g)でしたが、近年は価格が重視され50尾~30尾(200g~333g)がメインサイズになっています。

外食・中食などの業務用は以前から大きなサイズをカットして1人前にする事が出来るため価格メリットの大きい大型サイズを使用する事が多く、JAS法の表示義務でも外食・中食は原産地表示が不要な事から安価な中国産が積極的に使用されています。

台湾産の加工品も僅かに日本に輸入されていますが、中国産を嫌う消費者をターゲットとした量販店やデパ地下の水産売場で採用される程度です。価格も国産と中国産の中間と言うより国産から若干安い程度(4,000円~5,000円/㎏)で位置づけが難しい産地です。

21 April 2022 posted

鰻のたれ

1) 歴史

わが国の伝統的な料理である鰻の蒲焼は、由来については諸説あり、当初は単純な食べ方が主流で、記録されている文献としては、「新猿楽記」(藤原明衡著、11世紀初頭)が古く、料理法として初出する文献に「鈴鹿家記」(1336年)があり、素焼きした鰻に塩や酒、酢や酢味噌などで味付けし食されていました。江戸時代に入ると「瓦礫雑考」(喜多村節信著、1817年)の中に「丸にあぶりて後に切なりまちしやうゆと酒を交えて付けるなり」という記述があり、これが鰻のたれに近い調味料の初出と考えられます。また、「江戸酒飯手引」(東都蒼先堂著、1846年)には90軒にものぼる鰻屋が江戸の街に存在したとの記述があり、嘉永以来、江戸末期に至るまでに鰻の蒲焼が料理として広がり、取り扱う店も多かったことが分かります。その後、「遊暦雑記」(厭離斉宗知著、1829年)において、「扱たまり三合に味醂一合、白砂糖二十匁ばかり合して」と、しょうゆに味醂と砂糖を混ぜた調味料の記述があり、現在の鰻のたれに近い配合になったと考えられます。鰻の割き方については、関東と関西で背開きと腹開きの違いがありますが、味付けについても「守貞漫稿」(喜多川守貞著、1853年)には「江戸は之を焼くに醤油に美醂酒を和す。京阪は諸白酒を和す」とあり、割き方に合わせて味付けも異なっていたことが分かります。

2) 現在の鰻のたれ

現在の鰻のたれは、街の鰻専門店で使用されている江戸時代から続く製法で作られたものと、量販店や大手外食チェーン向けに工業的に生産される鰻蒲焼の加工などに使用するものに大別されます。鰻専門店のたれは単純な製法で、ゆっくり煮詰めた味醂に、さっと煮たしょうゆを合わせるのが原則であるが、味醂の甘さに加え砂糖を使用するものもあり、地域ごとまたはお店ごとに味付けが異なります。対して工業的な鰻のたれは、工場の生産ラインを使用して鰻の蒲焼を量産し冷凍流通を経る関係から、温度変化に耐え、量産時に見た目と味が均一になるように工夫された仕様となっており、使用する原材料も複雑になっています。これらの違いは、作ってから食するまでの過程がそれぞれの業態で異なるため、鰻のたれの配合設計も大きく異なっています。

3) 工業的な鰻のたれ

「鰻蒲焼の加工(たれ)について」(ユタカフーズ(株)作成資料)をご参照下さい。

参考文献

松井魁、うなぎの本[日本料理技術選集]、柴田書店、1982、100-150

21 April 2022 posted

鰻蒲焼の加工とたれの製造

1) 鰻蒲焼ラインの製造工程

①立場 鰻の浄化(鰻の浄化:泥吐き)

②氷締め (鮮度保持)

③割き

④白焼き

⑤蒲焼き (タレ4回付け:下焼き用たれ3回、仕上げ用たれ1回)

⑥凍結

⑦箱詰め

⑧出荷

2) 蒲焼のたれの種類とその目的

鰻蒲焼のたれには、下焼き用と仕上げ用のたれ(業務用)と、添付用のたれがあります。

業務用の鰻のたれ(下焼き用・仕上げ用)は、鰻蒲焼ラインで焼き色を平均化し安定した蒲焼の色を付けるため、たれを下焼き用と仕上げ用に区分しています。主に、一斗缶で提供されます。一斗缶であれば、事前にたれを温めておき、焼きあがった蒲焼の温度を一定に保つことができ、焼き色を一定化させることにも役立ちます。

業務用の中でも、下焼き用たれは、よく焼けて、明るい焼き色になるような配合になっています。具体的には、たれの糖度を下げることで、強火で焼いても焦げにくくしています。配合によっては、色素(アナトーやカラメル)で好まれる焼き色に仕上げています。

業務用の仕上げ用たれは、焼き色が映えて、照り艶が良くみえるような配合です。下焼きで焼いた焼き色を活かすため、たれは淡い色合いになっています。澱粉と増粘剤を併用し、粘性を持たせることで蒲焼の上にたれが残り照り艶を維持できるようになっています。また、蒲焼の冷凍焼け防止効果もあります。

添付用たれは、蒲焼と合わせて販売することが多く、飯だれとして使用します。小袋(山椒付き親子パック)10 ml~15 mlや角ボトル50 ml~200 mlで提供されます。このたれは、ご飯に絡まる程度の粘性があり、白飯に映えるよう色は濃いものが多くなっています。

21 April 2022 posted

Donation & Research Collaboration

contact to kenkyo@fish.hokudai.ac.jp

The other general inquiry

contact to education@fish.hokudai.ac.jp

COPYRIGHT©FACULTY OF FISHERIES SCIENCES, HOKKAIDO UNIVERSITY. ALL RIGHTS RESEARVED.