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Fish of the Month Sculpin

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Site opening on 30 May 2022

多聞

鰍は名前の通り、秋が旬の魚です。少し早いですが、鰍の知見を高めて、味わう準備を始めましょう。秋の函館湾でも、特に日暮れ時、鰍が良くかかります。その昔、北海道大学水産学部で専門教育を受けるため、札幌から函館に移るのは夏の終わりでした。函館生活に慣れ始め、釣りでもするかと港にでかけ、思いのほか鰍の豊漁を経験しました。旬ですので、味もまずまず。

このように鰍は水産資源としての価値もあるため、北海道大学水産科学研究院には、鰍も含まれるカサゴ目魚類の系統分類のプロフェッショナルがいます。また、思いの他、種多様性が高く、かつ思いがけない繁殖様式をとることから、遺伝・生態的見地から鰍を探求している研究者もいます。

そう、多くの方がご存知の、今村教授と宗原教授がタッグを組み、鰍のコンテンツを準備くださいました。

一読いただくと、鰍って奥が深い!と、ついつい、心の声が...

この背景とカジカ類の近くにある2点のイラストは、北海道大学水産科学研究院の魚類分類のラボで記載された鰍の新種です(それぞれキマダラヤセカジカとカンムリフサカジカ)。北海道大学名誉教授である矢部衞博士の俊作です。点描の極みです。

秋の鰍の旬に向け、そのBiology、Ecology、Physiology、そして、もちろん水産科学の知見向上に、この鰍のコンテンツをお役立てください。

FoM Editorial

20 May 2022 posted

カジカ類

カジカ類とは、広い意味ではカジカ亜目Cottoideiカジカ上科Cottoideaに分類される魚類のことで、世界から約100属400種が知られ、日本には130種以上が分布します。カジカ類の多くは北半球の寒冷海域に分布しますが、一部は南アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなどの南半球からも知られています。生息域は主に浅海から沿岸大陸棚ですが、水深2800 mもの深海や、河川や湖といった淡水域にも生息します。カジカ類は一般に、頭部が大きくて縦扁する、背鰭が2基ある、胸鰭の基底が幅広い、鰾(うきぶくろ)がないなどの特徴を持ちます。

カジカ類は北海道を代表する魚類でもあり、90種以上が生息しています。ベロのように防波堤などから簡単に釣ることができる種や、フサカジカなどのように潮間帯の潮溜まりで見つけることができる種もあります。またケムシカジカやギスカジカなどのように食材として利用される種もあり、カジカ類は北海道に住む人々にとっては馴染み深い魚類と言えるでしょう。そんなカジカ類ですが、わかっていないことも多くあり、北海道大学の研究者にとってはとてもよい研究対象となります。例えば、北海道産カジカ類のうち、9種が北大の研究者によって新種として発表されているなど、新しい発見が多数あります。FoMを通じて皆様がカジカ類についての知的好奇心を満たしていただけると大変嬉しく思います。

今村 央・北海道大学大学院水産科学研究院・教授/北海道大学総合博物館分館水産科学館・館長

30 May 2022 posted

カジカ類の多様性

分類体系は考え方や立場によって研究者間で異なることがあります。ここでは出版当時の日本産魚類全種類を網羅した「日本産魚類検索 全種の同定 第三版」で示された分類体系(中坊・甲斐, 2013)にしたがい、日本産カジカ類について6つの科に分けてそれぞれの特徴などを説明することで、カジカ類の多様性を紹介します。

トリカジカ科Ereuniidae:世界で2属3種(マルカワカジカ Marukawichthys ambulatorMarukawichthys pacificus、トリカジカ Ereunias grallator)が知られ、このうちマルカワカジカとトリカジカの2種が日本に分布します。M. pacificusは天皇海山のみから知られます。本科魚類は胸鰭下部に遊離軟条があるなどの特徴があります。

マルカワカジカ Marukawichthys ambulator(トリカジカ科) (写真と標本:北大総合博物館所蔵)

クチバシカジカ科Rhamphocottidae:本科にはクチバシカジカRhamphocottus richardsonii1種のみが含まれます。本種はその名の通り、鳥のクチバシのような口を持ち、頭が非常に大きくて体長は頭長の1/2以上、体高が高い、胸鰭下部に遊離軟条があるなどの特徴を持ちます。本種は日本では岩手県から相模湾まで知られるほか、国外ではカムチャッカ半島東岸、ベーリング海、アラスカ湾西部からカリフォルニア州のサンタモニカ湾にも分布します。

クチバシカジカ Rhamphocottus richardsonii(クチバシカジカ科) (写真と標本:北大総合博物館所蔵)

ケムシカジカ科Hemitripteridae:本科は北部太平洋と北西大西洋から3属8種が知られ、日本には3属4種(ケムシカジカ Hemitripterus villosus、オコゼカジカ Nautichthys pribilovius、イソバテング Blepsias cirrhosus、ホカケアナハゼ Blepsias bilobus)が分布します。本科は体が小さなこぶ状突起に覆われるなどの特徴で共通しています。

イソバテング Blepsias cirrhosus(ケムシカジカ科) (写真と標本:北大総合博物館所蔵)

カジカ科Cottidae:カジカ科はカジカ類の中で最も多様性が高い一群で、世界から約70属300種が知られ、日本には32属87種が生息します。カジカ科は主に北半球の寒冷水域に広く分布しますが、東部オーストラリア、ニューギニア近海およびニュージーランドからも知られます。多くは海産種ですが、カジカ属 Cottusのように淡水に生息する種もいます。沿岸域から知られる種が多いですが、中にはAntipodocottus elegansのように水深735 mの深海域から採集される種もあります。カジカ科は、体は無鱗か、または鱗や変形鱗が粗く分布し、柔軟ではないなどの特徴を持ちます。

キヌカジカ Furcina osimae(カジカ科) (写真と標本:北大総合博物館所蔵)

ウラナイカジカ科Psychrolutidae:ウラナイカジカ科は大西洋、インド洋および太平洋に7属約30種が分布し、日本からは6属11種が知られます。Psychrolutes sigalutesのように沿岸域の浅瀬からも知られる種から、ニュウドウカジカのように深海2800 mに達する種まで、その生息水深は多様です。本科には、体は柔軟で鱗はないか、または棘を伴う小さな骨質板を持つ、背鰭の棘状部と軟条部は連続し、これらの一部はしばしば皮下に隠れる、側線は退縮的であるなどの特徴があります。

ガンコ Dasycottus setiger(ウラナイカジカ科) (写真と標本:北大総合博物館所蔵)

トクビレ科Agonidae:トクビレ科には「カジカ」の名前はついていませんが、本科もカジカ類の仲間です。トクビレ科は北極域、北部大西洋、北部太平洋、および南アメリカ南部から12属44種が知られ、日本には13属23種が分布します。トクビレ科の生息水深は沿岸の浅海域から1000 mを超える深海まで多様です。本科は、体が骨質板で覆われ、多くの種で細長い、全ての鰭条が不分枝であるなどの特徴を持ちます。

トクビレ Podothecus sachi(トクビレ科) (写真と標本:北大総合博物館所蔵)

今村 央・北海道大学大学院水産科学研究院・教授/北海道大学総合博物館分館水産科学館・館長

参考文献

中坊徹次・甲斐嘉晃 (2013) カジカ亜目. 中坊徹次 (編), pp. 1152–1218, 2059–2076. 日本産魚類検索 全種の同定 第三版. 東海大学出版会, 秦野.

Nelson J. S., Grande T. C., Wilson M. V. H. (2016) Fishes of the world, fifth edition. Wiley, New Jersey.

矢部 衞 (2011) カジカ類の種多様性と形態進化. 宗原弘幸・後藤 晃・矢部 衞 (編著), pp. 2–42. カジカ類の多様性 適応と進化. 東海大学出版会, 秦野.

30 May 2022 posted

カジカ類の近縁群

カジカ上科はさらに高位の分類群であるカジカ亜目に含まれています。カジカ亜目は、頭頂骨に感覚管の支持構造がある、鰓条骨が6本である、背側筋由来の発音筋があるなどの特徴を持ちます。カジカ亜目にはカジカ上科の他に5つの上科が含まれています。以下にこれらの魚類をNelson et al. (2016)の分類体系に沿って紹介します。

ダンゴウオ上科Cyclopteroidea:ダンゴウオ上科はカジカ上科に最も近縁とされる分類群で、ダンゴウオ科Cyclopteridaeとクサウオ科Liparidaeが含まれます。両科は左右の腹鰭が合一して吸盤状に変形するのが大きな特徴ですが、クサウオ科には吸盤が退化的、またはない種もいます。ダンゴウオ科は主に北半球の寒冷水域に生息しますが、ダンゴウオ Lethotrenus awaeのように西日本の日本海側や黄海などにも分布する種もいます。本科からは27種が知られ、このうち11種が日本にも分布します。Nelson et al. (2016)は本科に約6属を認めましたが、Oku et al. (2017)は本科の系統類縁関係から4属を認める分類体系を提唱しました。ダンゴウオ科は、体は球形で、多くの種で骨質のこぶ状突起で覆われるなどの特徴があります。クサウオ科は北極から南極まで約32属400種が知られ、日本からは約10属50種が知られています。本科は、皮膚は寒天質で鱗を持たず、一部の種では小棘が散在するなどの特徴を持ちます。

コンペイトウ Eumicrotremus asperrimus(ダンゴウオ科) (写真と標本:北大総合博物館所蔵)
エゾクサウオ Liparis agassizii(クサウオ科) (写真と標本:北大総合博物館所蔵)

ハタハタ上科Trichodontoidea:ハタハタ上科はカジカ上科とダンゴウオ上科からなる一群と近縁と考えられています。ハタハタ類は従来スズキ目Perciformesワニギス亜目Trachinoideiに分類されていましたが、比較的近年になって遺伝学的にも形態学的にもカジカ類に近縁な一群であることが示されました(例えば遺伝学的研究のSmith and Wheeler, 2004; 形態学的研究のImamura et al., 2005)。ハタハタ上科はハタハタ科Trichodontidaeのみから構成され、本科はハタハタArctoscopus japonicusとエゾハタハタTrichodon trichodonの2属2種のみを含みます。両種とも北部太平洋に分布しますが、日本から知られるのはハタハタ1種のみです。本科には、体は側扁し、鱗はない、口は斜位で、両唇に皮弁がくし状に並ぶ、前鰓蓋骨に5本の鋭い棘を持つなどの特徴があります。

ハタハタ Arctoscopus japonicus(ハタハタ科) (写真と標本:北大総合博物館所蔵)

アイナメ上科Hexagrammoidea:アイナメ上科はアイナメ科Hexagrammidaeのみを含みます。本科は北部太平洋に分布する3属9種から構成され、日本には2属7種が分布します。アイナメ科は、頭部に棘や骨質の隆起線がない、背鰭は1基であるなどの特徴を持ちます。本科魚類のOphiodon elongatusは最大で体長1.5 mにも成長します。

アイナメ Hexagrammos otakii(アイナメ科) (写真と標本:北大総合博物館所蔵)

ザニオレピス上科Zaniolepidoidea:ザニオレピス上科はザニオレピス科Zaniolepididaeのみからなり、本科には東部太平洋(ブリティッシュコロンビアからカリフォルニアまで)に分布する2属3種のみが含まれます。本科は、臀鰭の前部に3本の棘条がある(Oxylebius pictusでは4本の場合もある)などの特徴があります。

ギンダラ上科Anoplopomatoidea:ギンダラ科Anoplopomatidaeのみから構成されます。ギンダラ科にはギンダラAnoplopoma finbriaとアブラボウズErilepis zoniferの2属2種のみが知られ、両種ともに日本を含む北太平洋に分布します。本科は、頭部に棘や骨質の隆起線がない、背鰭は2基であるなどの特徴を持ちます。両種ともに大型種で、ギンダラでは1 m、アブラボウズでは1.8 mにもなります。ギンダラ類はカジカ亜目の中で最も早期に枝分かれした一群と考える研究者がいる一方で、本群はカジカ亜目魚類とは直接の近縁性はないと考える研究者もいます。

ギンダラ Anoplopoma finbria(ギンダラ科) (写真と標本:北大総合博物館所蔵)

今村 央・北海道大学大学院水産科学研究院・教授/北海道大学総合博物館分館水産科学館・館長

参考文献

中坊徹次・甲斐嘉晃 (2013) カジカ亜目. 中坊徹次 (編), pp. 1152–1218, 2059–2076. 日本産魚類検索 全種の同定 第三版. 東海大学出版会, 秦野.

Nelson J. S., Grande T. C., Wilson M. V. H. (2016) Fishes of the world, fifth edition. Wiley, New Jersey.

Oku K., Imamura H., Yabe M. (2017) Phylogenetic relationships and a new classification of the family Cyclopteridae (Perciformes: Cottoidei). Zootaxa 4221, 1–59.

Imamura H., Shirai S. M., Yabe M. (2005) Phylogenetic position of the family Trichodontidae (Teleostei: Perciformes), with a revised classification of the perciform suborder Cottoidei. Ichthyol. Res. 52, 264–274.

Smith W. L., Wheeler W. C. (2004) Polyphyly of the mail-cheeked fishes (Teleostei: Scorpaeniformes): evidence from mitochondrial and nuclear sequence data. Mol. Phylogenet. Evol. 11, 441–458.

矢部 衞 (2011) カジカ類の種多様性と形態進化. 宗原弘幸・後藤 晃・矢部 衞 (編著), pp. 2–42. カジカ類の多様性 適応と進化. 東海大学出版会, 秦野.

30 May 2022 posted

カジカ類の系統類縁関係と分類体系

カジカ類の系統類縁関係はこれまで多くの研究者によって推定されてきました。最も古い研究はGill (1888)です。Gill (1888)は断片的な骨格系の情報に基づき、カジカ亜目が含まれるさらに大きな分類群であるカサゴ目Scorpaeniformesの系統類縁関係を推定し、カジカ科とケムシカジカ科が近縁であり、クチバシカジカ科とトクビレ科はカサゴ亜目Scorpaenoideiのホウボウ科Triglidaeとキホウボウ科Peristediidaeなどと近縁であると考えました。松原(1955)も骨格形態などの観察から、カジカ科とトクビレ科が近縁であり、さらに両科はダンゴウオ科とクサウオ科からなる一群と近縁であると推定しました。Yabe (1985)は骨格系と筋肉系を詳細に観察し、カジカ上科の系統類縁関係を包括的に推定し、得られた系統関係をもとにカジカ上科に6科、すなわちトリカジカ科、クチバシカジカ科、ケムシカジカ科、カジカ科、ウラナイカジカ科、およびトクビレ科を認めました。当時は外国人にはロシア産の標本の入手が難しかったため、同国のバイカル湖に固有のアビッソコッタス科Abyssocottidaeとコメフォルス科ComephoridaeはYabe (1985)の系統解析には含まれていませんでしたが、彼は暫定的に両科もカジカ上科に含めました。さらに、ペルーからチリに分布するノルマニクテュス科 Normanichthyidaeの唯一種であるノルマニクテュス Normanichthys crockeriもYabe (1985)の系統解析に含まれていませんでしたが、本科も暫定的にカジカ上科に含めました。しかし、ノルマニクテュスはのちの形態学的研究によってカジカ亜目に属さないことが示されています(Yabe and Uyeno, 1996; Imamura and Yabe, 2002)。Yabe (1985)のあと、1990年にバシルティクチス科Bathylutichthyidae が新科として設立されていますが、後述するように本科を認めない研究もあります。

Gill (1888) が推定したカサゴ目の系統類縁関係
松原 (1955) が推定したカサゴ目の系統類縁関係(松原, 1955を改編)
Yabe (1985) が推定したカジカ上科の系統類縁関係
ノルマニクテュス Normanichthys crockeri(ノルマニクテュス科)(写真と標本:北大総合博物館所蔵)

従来の形態形質に加え、近年では遺伝情報に基づいた系統解析も盛んに行われています。例えばSmith and Wheeler (2004)は、ミトコンドリアDNAと核DNAを用いてカサゴ目全体の系統関係を推定しました。そしてクチバシカジカとマルカワカジカが近縁であるなどの、従来の形態情報から推定された系統関係とは大きく異なる仮説を提示しましたが、系統関係に基づく分類体系の提唱は行いませんでした。一方Smith and Busby (2014)は、4517個の遺伝情報と72個の形態形質を用いて69種のカジカ亜目魚類の系統解析を行い、以下のカジカ上科に関する仮説を提示しました。すなわち、1) カジカ科のジョルダニア属 Jordaniaは単独で独自の分岐群を形成する、2) クチバシカジカ科のクチバシカジカ属とトリカジカ科のマルカワカジカ属は姉妹関係にあり、両属からなる独自の分岐群を形成する、3) カジカ科のスコルパエニクチス属Scorpaenichthysは単独で独自の分岐群を形成する、4) カジカ科のヨコスジカジカ属Hemilepidotus、ケムシカジカ科、およびトクビレ科は近縁で、これらからなる独自の分岐群を形成する、5) 海産カジカ科のLeptocottus属、淡水産カジカ科のカジカ属 CottusCephalocottus属など、およびバイカル湖産のアビッソコッタス科とコメフォルス科が近縁で、これらからなる独自の分岐群を形成する、6) オニカジカ属 Enophrys、ギスカジカ属 Myoxocephalus、コオリカジカ属Icelusなどの海産カジカ科、およびウラナイカジカ科が近縁で、これらからなる独自の分岐群を形成する、という仮説です。Smith and Busby (2014)はこの系統仮説に基づき、上記の6つの分岐群のそれぞれに対し、ジョルダニア科Jordaniidae 、クチバシカジカ科Rhamphocottidae、スコルパエニクチス科Scorpaenichthyidae、トクビレ科Agonidae、カジカ科Cottidae、およびウラナイカジカ科Psychrolutidaeを認めました。Smith and Busby (2014)に基づき、これら6科を以下に要約します。

最節約法に基づいて推定したカジカ上科の系統類縁関係 (Smith and Busby, 2014)

ジョルダニア科:従来のカジカ科のジョルダニア属とParicelinus属に含まれる2種のみから構成され、第1咽鰓骨があるという1個の特徴で定義されます。

クチバシカジカ科:従来のクチバシカジカ科とトリカジカ科に含まれる3属4種から構成され、胸鰭下部に遊離軟条があるなどの4個の特徴で定義されます。

スコルパエニクチス科:従来のカジカ科のスコルパエニクチス属に含まれる1種のみから構成され、体の鱗はないなどの2個の特徴で定義されます。

トクビレ科:従来のトクビレ科、カジカ科のヨコスジカジカ属、およびケムシカジカ科に含まれる26属約60種から構成され、仔魚期または浮遊稚魚期に鱗由来の外皮性の棘を持つという1個の特徴で定義されます。

カジカ科:従来のカジカ科、アビッソコッタス科およびコメフォルス科の3群に含まれる淡水産カジカ類、および従来のカジカ科のLeptocottus属(海産)を含む18属約107種から構成され、鰓膜は峡部と癒合するなどの4個の特徴で定義されます。

ウラナイカジカ科:従来のウラナイカジカ科、バシルティクチス科、およびカジカ科に属する上記以外の属(海産)に含まれる64属約214種から構成され、腹鰭鰭条が3本以下であるなどの2個の特徴で定義されます。

これら6科のうちジョルダニア科とスコルパエニクチス科は近年では認められてこなかった分類群で、他の4科は従来の定義とは大きく異なっています。そのためでしょうか、Nelson et al. (2016)はカジカ科とウラナイカジカ科以外の4科についてはSmith and Busby (2014)の分類体系を採用していますが、ウラナイカジカ科については従来の定義を踏襲し、バシルティクチス科も認めています。またカジカ科については、従来のカジカ科、アビッソコッタス科およびコメフォルス科を包括した群として再定義した上で、これら3群には亜科のランクを与えており、いわば従来の分類体系とSmith and Busby (2014)の分類体系の折衷案となっています。

このように、分類体系はその元となる系統類縁関係について新しい仮説が提示されれば変更されることがあります。また、研究者によって採用する分類体系が異なることもあります。

今村 央・北海道大学大学院水産科学研究院・教授/北海道大学総合博物館分館水産科学館・館長

参考文献

Gill T. (1888) On the classification of the mail-cheeked fishes. Proc. US Nat. Mus. 11, 567–592.

Imamura H., Yabe M. (2002) Demise of the Scorpaeniformes (Acanthopterygii: Percomorpha): an alternative phylogenetic hypothesis. Bull. Fish. Sci. Hokkaido Univ. 53, 107–128.

松原喜代松 (1955) 魚類の形態と検索. 石崎書店, 東京.

中坊徹次・甲斐嘉晃 (2013) カジカ亜目. 中坊徹次 (編), pp. 1152–1218, 2059–2076. 日本産魚類検索 全種の同定 第三版. 東海大学出版会, 秦野.

Nelson J. S., Grande T. C., Wilson M. V. H. (2016) Fishes of the world, fifth edition. Wiley, New Jersey.

Smith W. L., Busby M. S. (2014) Phylogeny and taxonomy of sculpins, sandfishes, and snailfishes (Perciformes: Cottoidei) with comments on the phylogenetic significance of their early-life-history specializations. Mol. Phylogenet. Evol. 79, 332–352.

Smith W. L., Wheeler W. C. (2004) Polyphyly of the mail-cheeked fishes (Teleostei: Scorpaeniformes): evidence from mitochondrial and nuclear sequence data. Mol. Phylogenet. Evol. 11, 441–458.

Yabe M. (1985) Comparative osteology and myology of the superfamily Cottoidea (Pisces: Scorpaeniformes), and its phylogenetic classification. Mem. Fac. Fish Hokkaido Univ. 32, 1–130.

矢部 衞 (2011) カジカ類の種多様性と形態進化. 宗原弘幸・後藤 晃・矢部 衞 (編著), pp. 2–42. カジカ類の多様性 適応と進化. 東海大学出版会, 秦野.

Yabe M., Uyeno T. (1990) Anatomical description of Normanichthys crockeri (Scorpaeniformes, insertae sedis: family Normanichthyiudae). Bull. Mar. Sci. 58, 494–510.

30 May 2022 posted

北海道で多様性ナンバーワンの魚類は?

生物多様性という専門用語も、環境と開発に関する国際連合会議、いわゆる地球サミット以来31年が経過し、今では日常でよく使う生活用語のひとつとなりました。使い方としては、自然環境、地域、集団など眼の付け所によって、多様性のレベルが生態系であったり、生物群集であったり、種内の遺伝的変異であったり異なりますが、生物の基本単位は「種」であることから、「生物多様性=種の多様性」が最も重要なレベルになるでしょう。では、北海道という環境の中で最も種の多様性が高い、北海道を代表する魚類は、なんの仲間かご存知でしょうか。それを調べてみましょう。

ある国やどこかの海域、島など、地理的に区切った範囲内で見つかる全種をまとめて、その場所の「生物相」と呼びます。日本に生息する魚類に限れば、「日本の魚類相」で、北海道に範囲を絞れば「北海道の魚類相」です。これまで北海道では約800種の採集記録があり、それが図鑑にリストアップされています(尼岡ら 2020)。日本全体では359科約4200種なので(中坊 2013)、20%の種が北海道に分布することになります。それらの種を「科」ごとにまとめて、北海道と日本の種数ランキングベストテンを作成しました(Table 1)。このランキングの意味は、北海道で、日本で、それぞれの範囲で繁栄している魚類の順位を表します。

Table 1. 日本および北海道で分布が確認された魚種をそれぞれ科ごとに種数を比較したランキング

北海道のランキングの第1位は、カジカ科ですね。

ということは、北海道で最も繁栄している魚類はカジカ科ということです。カジカ科は日本ランキングでも88種で359科中の6位入賞です。その70%に相当する60種が北海道に生息するカジカたちです。まさにカジカ科は北海道を象徴する魚なのです。この記事が掲載されているWebページは、北海道大学水産科学研究院で行われている研究を紹介するコーナーです。北海道の水産業の代名詞であるサケと昆布に次いでカジカが登場した理由もここにあります。

2015年にニューヨークで開催された国際連合総会で、持続可能な開発目標=SDGs(Sustainable Development Goals)を150か国・地域で国際合意しました。17項目あるSDGsの一つに『海の豊かさを守ろう』というテーマがあります。北海道の海や河川の環境を保全するために何も学べば良いか。それはカジカについてよく知ることが最初の一歩です。

宗原弘幸・北海道大学北方生物圏フィールド科学センター・臼尻水産実験所・教授

参考文献

尼岡邦夫・仲谷一宏・矢部 衛. 2020. 『北海道の魚類 全種図鑑』, 北海道新聞社.

中坊徹次. 2013.『日本産魚類検索 第3版』, 東海大学出版会.

30 May 2022 posted

カジカ類繁栄の秘密-1 体内配偶子会合

北海道から千島列島、カムチャツカ半島、アリューシャン列島、アラスカ半島、カナダバンクーバー島、カリフォルニア州沿岸までの環北太平洋沿岸域は、夏でも水温が20℃を超える日が少ない寒冷な海域です。カジカ上科を筆頭に、ゲンゲ亜目とダンゴウオ上科に属する魚類をよく見ます。種多様性という観点では大きな存在です。この3つのグループには多くの共通点があります。遊泳力が乏しく海底に潜むような生態を持つ種が多いこと、卵は捕食されないように孵化まで手厚く保護されること、カジカ類とゲンゲ亜目では、交尾する種が多いことなどです(宗原 2011)。

卵を産んで精子をふりかける、こうした一般的な魚類の繁殖様式では、産卵のたびに雄と雌が出会わなければ受精できません。相手を探す時間、繁殖行動の時は無防備になるなど、雄と雌の出会いにはコストやリスクが伴います。一方、交尾をして、その後精子を卵巣の中で蓄えることができれば、そうしたリスクを減らすことができます。

受精は、卵細胞と精子が持つ1セットずつのゲノム(遺伝子セット)を一つの細胞の中で合一し2セットにする過程です。受精前に精子は減数分裂を終了していますが、卵細胞は減数分裂の途中で止まって、精子の侵入を待ちます。分裂を途中で止めていることにも限界があって(種によって数時間から数日以内)、リミットを過ぎた(過熟)卵細胞は受精能を失います。卵細胞が受精可能となるのは、卵膜の外側を包む濾胞細胞が破れ排卵してからです。なので、卵巣の中で精子が排卵を待っているという状態ならば、過熟のリスクを減らすことができます。交尾をするカジカ類では、精子と卵はそのような出会いをします(Fig. 1)。

Fig. 1. 交尾型カジカの受精様式.

交尾型カジカの精子は卵門と呼ばれる細い通り道に侵入し、その奥の卵細胞の入口にあたる精子受容器にタッチします(Munehara et al. 1989)。いつでも受精ができる位置に精子はスタンバイとなります。受精は卵が海中に産み出されてから始まります。カジカ類の場合、卵巣内の環境では、受精を始める刺激が乏しいからです(Munehara et al. 1994)。このような受精様式を『体内配偶子会合』と呼びます。体内受精ではない、この受精様式にはもうひとつ重要な意義があります。

受精した卵細胞は「胚」となり、発生が進むと酸素が必要になります。体内受精であれば、雌が産卵場所を探す時間にリミットがあり、それを過ぎると窒息するか、死亡せずとも正常な発生ができなくなります。体内配偶子会合であれば、卵が過熟になるまでという制限はありますが、雌親は産卵に適した場所を見つける時間に余裕ができます。

交尾型カジカ類には、雌が卵保護する種(ヤセカジカ、キマダラヤセカジカなど)やホヤやカイメンなどの無脊椎動物に卵を産みつける種(アサヒアナハゼ、イソバテングなど)など、雌の行動に自由度が上がったために可能になった繁殖様式が知られています(Abe and Munehara 2009)。交尾をするようになったことが繁殖様式の多様化の始まりです。

宗原弘幸・北海道大学北方生物圏フィールド科学センター・臼尻水産実験所・教授

参考文献

Munehara H., Takano K., Koya Y. (1989) Internal gametic association and xternal fertilization in the Elkhorn Sculpin, Alcichthys alcicornis. Copeia 1989, 673-678.

Munehara H., Koya Y., Takano K. (1994) Conditions for initiation of fertilization of eggs in the copulating elkhorn sculpin. Journal of Fish Biology 45, 1105-1111.

Abe T., Munehara H. (2009) Adaptation and Evolution of Reproductive mode in Copulating Cottoid Species. pp221-246, In “Reproductive Biology and Phylogeny in Fishes” edited by B.G.M. Jamieson, Science Publisher, Enfield, USA.

宗原弘幸(2011) 生態進化から見たカジカ類の適応放散とそのプロセス.宗原弘幸・後藤 晃・矢部 衛(編著), pp. 85-120.カジカ類の多様性 適応と進化. 東海大学出版会, 秦野.

30 May 2022 posted

カジカ類繁栄の秘密-2 浮遊生活期、稚魚、浮き袋なし

底生性と正反対の生態は、ニシン、サケなどの回遊になるでしょう。こうした魚類は広い分布域を持ち、漁獲量が多く、食卓にあがることが多い魚です。しかし、種数は多くありません。たとえば、ニシンは北日本各地に生息していますが、種としては同じニシンClupea pallasiiです。またカナダやアラスカから輸入されるニシンも同じ種です(ノルウエーやオランダからの大西洋産はさすがに別種)。北海道の各河川に遡上するサケも、カムチャツカ半島やアラスカやカナダの河川に遡上するサケも、同じサケOncorhrynchus ketaです。河川が違うと、繁殖集団としては異なりますが、別種に分けられるほど大きな違いはありません。一方環北太平洋域の御三家(カジカ上科、ゲンゲ亜目、ダンゴウオ上科)は底層で繁栄していますが、各種の分布範囲は回遊魚のように広くありません。形態が類似した種が同所的あるいは隣接して分布する場合はたくさんあります。たとえば、ツマグロカジカ属やヨコスジカジカ属はそれぞれ6種いますが、北太平洋の東と西、ベーリング海と北極海など各種の分布域は限定的です。「種多様性」と「分布域」には負の相関があるように見えます。これは魚類学において系統と進化に通じる重要な研究テーマです。カジカ類で調べてみましょう。

カジカ類は、小さな仔魚として孵化し、ただちに自立した生活を始めます。底生性ですが、最初はプランクトンのような浮遊生活を送ります。この時期は海流に乗ることや自力遊泳することで移動し分布拡大が可能です。しかし浅海で繁殖するカナダのカジカ類を調べた研究では、浮遊期は岸から20mまでの範囲にとどまり、ひと月程度で底生生活に移行します(Marlieve 1986)。浮遊期が短く沖合にほとんどでない初期生活史は、多くのカジカ類にみられます。その理由の一つは浮き袋を持っていないことです。また頭部が大きい外見から想像できるように骨太の体型です。浮遊期の仔稚魚は、肛門から後ろの部分が長く、細長い形態で遊泳に向いた体つきですが、成長に伴い親の形態に近づくと、体が重くて底生生活に移らざるを得ないのです。生まれた場所から離れない保守的性格が強い生態なのです。

各種の初期生活史の生態研究の最初のステップは、仔稚魚の種判別ができることです。カジカ類は親になると、それぞれの種は個性的な姿をしていますが、浮遊期の間は種の違いが小さく見分けることが難しい魚類です。そのようなケースでは、遺伝子を調べることで種判別が可能になります(DNAバーコーディング)が、正しく種判別された標本の遺伝子情報がなければ、正確な答え合わせができません(百田・宗原 2017; 東・宗原 2021)。すべてのカジカ類の稚魚の形態と遺伝子情報が不可欠ですが、データベースに登録されている数はまだ半分にも及びません。カジカ類の稚魚研究は発展途上です。

宗原弘幸・北海道大学北方生物圏フィールド科学センター・臼尻水産実験所・教授

参考文献

Marlieve J. B. (1986) Lack of planktonic dispersal of rocky intertidal fish larvae. Trans. Am. Fish. Soc. 115, 149-154.

百田和幸・宗原弘幸 (2017) 北海道函館市臼尻からSCUBA潜水によって採集された北限記録6種を含む初記録9種の魚類. 北大水産科学研究紀要,59, 1-18.

東大聖・宗原弘幸(2021)北海道函館市臼尻からSCUBA潜水によって採集された初記録4種を含む稚魚. 北大水産科学研究彙報,71, 51-67.

30 May 2022 posted

カジカ類繁栄の秘密-3 不凍タンパク質

北太平洋で繁栄している魚類は、いずれも低水温に強い。それでも北極海まで進出している魚種は少なく、カジカ類400種のうちカジカ科18種、ウナライカジカ科8種、トクビレ科4種、ケムシカジカ科2種しかいません。氷点下の海で生き残る備えがない生き物は、血液や体液(細胞間隙液)が凍りつき、やがてすべての生命活動が停止した死体となるだけです。氷海への備えとは何か?

凍結は、水のなかに氷の結晶が現れ、それに水分子が結合し、結晶が成長し固体となる現象です。だから、水を凍りにくくするには、氷晶の出現を阻止することと、その成長を阻害することです。その方法は、いくつかあります。たとえば、海水中にできた氷晶が体内に入らないようにすることです。ヌルヌルした粘液で体表をバリアするという方法はそこそこの効果はあります。しかし、鰓など海水と直接触れざるを得ない器官もあり、完全な防御ではありません。マグロのように体温を上げることも戦略の一つですが、熱伝導に優れた海中では、熱を発生するだけで大量のエネルギーを消費し、成長も繁殖もできません。

氷海でサバイバルできる魚類には、共通点があります。不凍タンパク質あるいは不凍糖タンパク質をコードする遺伝子を持つことです。これらは肝臓や皮膚で合成され、血液や体液に溶け込み、「凝固点降下」、「細胞外から細胞膜の保護」、「氷晶発達の阻害」などの機能を持つ生体高分子物質です。3つの機能の中で、桁外れの不凍効果を発揮するのが氷晶発達の阻害です(Fig. 1; De Vries and Wohlschlag 1969; Rubinsky et al., 1990)。

Fig. 1. 不凍タンパク質が氷晶に付着し氷晶の発達を妨げる

カジカ類では、北極海と北大西洋に生息する種で生化学的な分析が進められていました。そこに北大でも2013年に練習船おしょろ丸の北極海航海に乗船した当時大学院生だった山崎彩博士がシベリアツマグロカジカを採集し、進化生態学的視点から不凍タンパク質研究に参戦しました。その結果、不凍タンパク質遺伝子の重複度や合成能が、北大西洋まで進出したギスカジカ属の方が、北極海までのツマグロカジカ属より高いことを突きとめました。また同時に進めていた分子系統解析から、それぞれが北極海に進出したタイミング(ギスカジカ属はベーリング海峡が最初に開通した約790万年前頃、ツマグロカジカ属が海峡閉鎖後に再開通した300万年前頃)と不凍タンパク質合成能を獲得した年代推定もできました(Yamazaki et al. 2018, 2019)。この研究により、カジカ類が種多様性だけでなく、多様な分布域に進出できた謎のひとつが解明できました。

ここでは北太平洋に生息する海産カジカ類の繁栄の秘密を紹介しました。カジカ類は、淡水域においても約100種が知られ、日本を含めユーラシア大陸、北米大陸など北半球の至る所で繁栄しています。

宗原弘幸・北海道大学北方生物圏フィールド科学センター・臼尻水産実験所・教授

参考文献

宗原弘幸(2020)北海道の磯魚たちのグレートジャーニー. 海文堂.

山崎 彩・宗原弘幸(2018) カジカ科魚類の低温適応と不凍タンパク質, pages 85-95,『不糖タンパク質の機能と応用 Functions and Applications of Antifreeze Protein』, 津田栄監修, シーエムシー出版.

Yamazaki A., Nishimiya Y., Tsuda S., Togashi K., Munehara H. (2018) Gene expression of antifreeze protein in relation to historical distributions of Myoxocephalus fish species. Marine Biology 165, 181.

Yamazaki A., Nishimiya Y., Tsuda S., Togashi K., Munehara H. (2019) Freeze tolerance in sculpins (Pisces; Cottoidea) inhabiting North Pacific and Arctic Oceans: antifreeze activity and genetic structure of the antifreeze protein. Biomolecules 9, 139.

30 May 2022 posted

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